エレノアとの約束
「おっと、エレノア。明日、予定通り閣下がニューランズ伯爵家にいらっしゃる。閣下だけではない。スチューとともに、シヅも来てくれるそうだ。よかったな」
「あなた、ほんとうに? シヅ、楽しみにしているわ」
エレノアは、カイルから聞くと胸の前で手を組みよろこんだ。
そのちょっとした動作がまた可愛らしい。
(わたしが同じことをしたら、警戒されるでしょうね。拳をくれるか、蹴りを食らわすかの前兆に見えるでしょうから)
つまり、わたしがエレノアと同じ動作をしても、可愛くもなんとも見えない。
「ええ、エレノア。わたしも楽しみだわ。ニックとも遊ばせてね」
「もちろんよ。彼もよろこぶわ」
いろいろ大変である。
「楽しそうね。わたしもうかがいたいけれど、明日は慈善活動で国都から出ないといけないの。だから、シヅ、エレノア。夫がオイタしないようにお願いね」
「おいおい、愛しの妻よ。わたしがオイタするわけがないだろう」
デリクは、クラリスの冗談に顔を真っ赤にしている。
そんな話をしながら、エレノアとカイルと別れた。
客殿の前には、すでにブラックストン公爵家とニューランズ伯爵家の馬車が控えている。
ひと足先に馬車に乗り込むエレノアとカイルを、執拗以上に見つめてしまった。
そして、彼らの馬車が消え去るまでしつこく見送った。
デリクは、帰りがけにわたしたちを送ってくれた。
その方が効率的なことはいうまでもない。
わが家の使用人たちは、わたしたちの帰りを待ってくれていた。
「奥様、マクレイ国の社交界はいかがでしたか?」
「奥様、たくさんの人に揉まれて疲れたのではないですか?」
カミラとナンシーは、ドレスを脱ぐのを手伝ってくれている。
ふたりがかりでドレスを脱がしてもらうのは情けないかぎりである。しかし、わたしひとりだとボタンやフォックやスナップ等がうまくはずれそうにない。そうなるとイライラし、無理矢理脱いでしまうことになる。
このドレスは、クラレスに借りている。
彼女に変わり果てた姿で返すわけにはいかない。
というわけで、ふたりに手伝ってもらっている。
脱ぐ前、ふたりは疲れきった表情のわたしを見て嘆息した。
「奥様、とっても素敵ですわ」
「ええ。カミラの言う通りです。慣れない場所で多くの人に愛想を振りまくという苦行でお疲れになっているにもかかわらず、それでも美しいです。パーティー前でしたら、さらに美しかったでしょうね」
メイドのふりをしているふたりまで、わたしをおだてまくった。
そんなにおだてても、給金を上げるわけにはいかないのに。
(というか、大佐は彼女たちにどのくらい給金を渡しているのかしら? それどころか、ちゃんと渡しているのかしら? まさかデリクに甘えているってことないわよね?)
ふたりに愛想笑いをしつつ、そんなどうでもいいことを考えてしまった。




