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死んだはずの夫は、妻の尻に敷かれっぱなし?

 死んだはずの夫は、握手を交わすわたしがひきつった笑みを浮かべていることに気がついただろう。


 彼は、それをどう受け止めただろう。どう感じただろう。


 というか、いったいなにがどうなっているの?


 死んだはずの夫ベンジャミンことベンは、もっとも腕のいい諜報員だった。いや、諜報員である。その役者っぷりも半端ない。


 いまもそう。彼は、わたしにたいして初対面のように振る舞っている。


 やわらかい笑みを浮かべるいまの彼は、わたしの夫ベンではない。


 彼は、まさしくマクレイ国の貴族カイル・ニューランズ伯爵である。



 客殿にあるティールームのひとつでクラリスとエレノアが待っていることもあり、話はあらためて翌日に行うことになった。


 しかもニューランズ伯爵邸、である。


 王子であり将軍であるカーティスは、客殿よりもはるかに耳目のない場所で込み入った話をしたいらしい。


 当然、大佐は快く応じた。


「夫人もぜひ」


 カーティスは、笑顔で言った。


「どうかシヅとお呼びください、閣下」


 カーティスのことを将軍としての敬称「閣下」で呼ぶか、王子としての敬称「殿下」で呼ぶかを迷った。しかし、迷ったのは一瞬だった。デリクやカイルは閣下と呼んでいるので、閣下と呼んでみた。


「ですが、殿方のお話しにレディがしゃしゃり出るものではない、と夫に常日頃から注意されております」


 一般的には、そうだろう。


 カーティスの話の内容は、よほど極秘な内容だろう。めったにだれも来ない客殿の執務室でさえ、話すことをはばかる内容ということになる。


 わたし的には、知りたい。参加しなくても、同じ屋根の下で聞き耳を立てていたい。


 なんなら、参加したい。


 密談に加わりたい。


「ほう。スチューは強いな。愛する奥方に、そんな態度をとっているとは」


 カーティスは、ほんとうに可笑しそうに笑った。


「だれかさんは、愛する奥方の尻に敷かれっぱなしだから」

「閣下っ!」

「閣下っ!」


 デリクとカイルが同時に言った。


 それから、みんなで笑った。


「シヅ、きみにはエレノアの相手をして欲しい。彼女にもやっと同年代の友人ができたからね。ぜひとも彼女と仲良くしてやって欲しい」


 笑いが去ると、カーティスはやさしく言った。


「クラリスもよくしてくれているが、年長ということもあってエレノアはどうしても気を遣ってしまうようだから」

「もちろんですとも、閣下」


(いくら片腕とはいえ、その片腕の奥さんの心配までするなんて。カーティスは、ほんとうにやさしいのね)


 カーティスの気遣いには恐れ入る。



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