彼は、わたしではない妻の側に……
「い、いいえ、あなた。ごめんなさい。あまりにも素敵な殿方ばかりなので圧倒されてしまったのです」
大佐の心配に、なんとか冗談めかして答えた。
「なんだって? まいったな。わたしは、素敵ではないということかい?」
大佐は、わたしの冗談に知的な美貌を真っ赤にして気分を害したふりをする。
「あなた、誤解なさらないで。あなた以外は、という意味ですわ」
大佐から死んだはずの夫へ視線を走らせ、また大佐へとそれを戻した。
それから、キラキラ王子をあらためて見た。
ほんとうは、キラキラ王子はどうでもいい。
死んだはずの夫をもっと見たい。彼を見続けたい。
「失礼いたしました」
そんな内心を隠し、キラキラ王子に頭を下げて非礼を詫びた。
「無理もないな。たしかに、ここにいるのは美男子ばかりだ」
デリクがフォローをしてくれたタイミングで、笑いが起こった。
あらためてキラキラ王子を紹介された。
キラキラ王子、もといマクレイ国の王子カーティス・ブライアーズを。
カーティスは、資料通りやわらかそうな茶色の髪と同色の瞳を持ち、全体的にやさしい顔立ちをしている。しかも美しい。長身でそこそこの筋肉がついているのは、日頃からそこそこに体を鍛えているからに違いない。
なにより、気力が充実している。そして、独特のオーラを持っている。
その一方で、底になにかを秘めている、というかたくらんでいる。そういう覚悟とか気迫も感じる。
カーティスは、外見通り物腰がやわらかい。友好的で愛想がよく、他人にやさしいようだ。
つまり、彼は支配者の一族にしてはまともなようだ。
もっとも、あくまでも初対面で受けた印象である。
とはいえ、カーティスには胡散臭さもある。それが拭えない。
いずれにせよ、彼のことはどうでもよかった。
正直なところ、彼のことなど眼中になかった。
わたしのすべては、パーティーの間中ただひとりの人物にたいしてしか向いていなかった。
意識も関心も視線も、とにかくなにもかもが彼にしか向けられなかった。
死んだはずの夫が生きていた。
生きていて、いまわたしのすぐ側にいる。
すぐ目の前にいるのだ。
わたしではない妻の側に……。




