死んだはずの夫?
いまのわたしには、そんなエレノアの可愛さを心から感心したりうらやましがる余裕はない。それどころか、彼女と視線を合わせることさえ出来なかった。
エレノアは、あくまでもわたしの視界の中に入っているその他大勢のひとりにすぎない。
それよりも、いまはその彼女の隣に立つ人物を見るのに必死だった。その人物から視線と意識をそらすことができないでいる。
エレノアと同じように、わたしの視界の中に入っているその他大勢のひとりであるキラキラ王子がこちらに近づいてきた。
王子みずから近づいてくるというのもまた、他の王子たちとは違う。が、いまのわたしにそれを感心したり意外に思う余裕はない。
人垣が崩れると、キラキラ王子の為に道ができた。
キラキラ王子が近づいてくる。同時に、その人物もエレノアを伴って近づいてくる。
その間にも、その人物から目をそらすことができない。他に意識を向けることができない。
すぐ目の前までやってきた。
キラキラ王子もだけれど、その人物が、である。
その人物、いや、死んだはずの夫が、わたしのすぐ目の前までやってきたのだ。
死んだはずの夫しか見えない。他に意識を向けることができない。
だからいまこのとき、大佐がどんな表情をしていたのか、どんなふうに思ったり考えたりしているか、まではまったくわからない。
そもそも、いまのわたしにそんな余裕があるわけはない。
「シヅ、どうした? 大丈夫か?」
肩を抱かれ、そのときになってやっとわれに返った。
厳密には、かろうじて眼前の死んだはずの夫から意識をそらすことができた。
「シヅ、気分でも悪いのか?」
左耳に大佐の声が流れ込んできた。とはいえ、ほとんど聞こえない程度だったけれど。
注目されていることに気がついた。
周囲にいる全員が、わたしを見ている。
おそらく、デリクがわたしをキラキラ王子に紹介したのだろ。
それなのに、わたしはなんの反応も示さなかった。しかも、キラキラ王子ではなく違う人物を見ているのだから、だれもが不思議に思うだろう。
この場にいる大佐をのぞくだれもが、そんなわたしに違和感を抱いただろう。




