ブラックストン公爵夫妻は人気者
デリクとクラリスのブラックストン公爵夫妻は、社交界の人気者だった。
とにかく、彼らのまわりにさまざまな人が集まってくる。その人たちは、公爵に取り入ろうとか顔を売るとかだけの理由で集まってくるのではない。ただ単純に会話を楽しみたいのだ。
それはきっと、デリクとクラリスの人柄によるものであろう。
デリクとクラリスは、集まってくる人たちにわたしたちを紹介してくれた。
「ベイリアル王国にいる古くからの親友の末っ子夫妻でね。このスチューは、いろいろ事情があってわが国でのし上がろうとたくらんでいる」
デリクは、そう冗談めかして説明してから大笑いする。当然、人々も笑う。
「スチューは、そんな突拍子もないことをたくらむだけあってなかなかの人物だ。ベイリアル王国は、優秀な人材をみすみす失った。そして、わが国が得をしたというわけだ」
デリクは、そこでまた笑う。
彼の説明は、相手によって若干違うけれど大筋は同じである。
「わたしも驚いているのだ。スチューの若い奥方も魅力的だろう? 彼女は、博識で活発的でね。つまり、わが愛する妻と同じだ」
「まぁ、あなた。多くの人たちの前でそこまで褒めていただくのは恥ずかしいですわ」
クラリスも心得ている。夫の冗談に冗談で応じる。
「というわけで、夫妻ともどもわが国で大成できるようよろしく頼むよ」
そこで話を締める。
たいていの人たちは、デリクが太鼓判を押す人物だからと、さして詮索も疑いもなく受け入れてくれる。
「ようこそ」
「よろしくな」
わたしたちは、そんな人たちと握手を交わす。
これを繰り返すのであるが、その回数が半端ない。しまいには疲れてきた。
しかも宮殿の前で馬車を降りた途端に開始し、宮殿内の大廊下やパーティー会場である大広間内と、ひっきりなしに人が集まってくる。
余裕をもってブラックストン公爵邸を出たにもかかわらず、大広間に入ったときにはすでにパーティーは始まっていた。
「シヅ、スチュー、こちらへ。今夜のパーティーの主催者の一族を紹介したい」
デリクとクラリスに導かれ、大広間内を奥へと進んで行く。
その間も、集まってくる人たちに顔を売らなければならない。




