天使登場
五名の奥様方のひとりを除き、みんな年配だった。だから、クラリスが紹介したいといっていたのがそのひとりであるとすぐにわかった。
それはもう美しいレディである。派手な美しさではない。清楚でやさしい美しさである。
クラリスはお上品な美しさであるけれど、彼女はそれに輪をかけて清楚な感じがする。
彼女がクラリスくらいの年齢になれば、クラリスみたいになるのかもしれない。
クラリスもだけれど、その美しいレディもやさしくて気遣い抜群である。
彼女だけではない。他のレディたちも、気遣い抜群である。初対面の、しかも敵国からの亡命者であるとわたしにとても親切にしてくれた。
彼女たちの話をきいていると、彼女たちのボランティア活動はけっして裕福な者の偽善や自己満足の為にやっているわけではないということが感じられた。
彼女たちは、彼女たちなりに考え、行動している。それがいいか悪いかどうかは別にして、自分たちにできることを自分たちなりにやっている。
そういう印象を受けた。
ほとんどが慈善活動の話だった。その話の中で、つぎの慈善活動に誘ってもらった。
そうして、お茶会は無事に終了した。
わたしがなにかしでかすようなことはなかった。
大佐は、心配しすぎなのだ。
お茶会が終ると、清楚な美人を除いたレディたちを見送り、居間に行くことになった。
クラリスが言っていた紹介したい人というのは、やはり彼女だったのだ。
エントランスに入った瞬間である。「お母様っ!」というソプラノボイスとともに、幼子が走ってきた。
「まぁ、ニック。よそ様のお屋敷で騒いではいけませんよ」
幼子は清楚な美人に駆けより、彼女の足に抱きついた。
二階へと続く大階段の下には、ブラックストン公爵家の年配のメイドが微笑んでいる。
幼子は清楚な美人の息子で、年配のメイドがベビーシッターを務めていたのだ。
母は子を叱りながらも愛おしくてならないらしい。彼女は、すぐに息子を抱き上げた。
というか、二歳くらいのそこそこ体重のある子どもを、美人で華奢な彼女が「ひょい」と軽く抱き上げたのには驚いた。
(母親ってそんなものなの?)
こればかりは、子のないわたしにはわからない。
さすがに任務で子を産むことまではなかった。準備された赤ん坊や幼子の母親を演じたことは、何度かあったけれど。
驚きと畏怖の念で清楚な美人をついつい見つめてしまった。すると、彼女の胸に抱かれた彼女の息子が胸元から彼女を見上げて笑いかけた。その笑顔があまりにも彼女にそっくりなことにも驚いた。
(なんて美しい子どもなのかしら)
本気で感心した。
ほんとうに美しいのである。
それはまるで、美術館に展示してある絵画の天使みたいだ。
(こんな子が大人になったら、信じられないくらいの美貌の持ち主になるのかしら? それとも、成長するにつれ残念なことになるのかしら?)
一般的にはどちらともいえるだろう。
(というか、わたしってば失礼よね)
デリカシーがなさすぎた。
そこは、反省しなくては。




