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仲介者夫妻

 仲介者は、推測した通り公爵だった。


 現公爵の兄弟だとか、あるいは大佐のように子息のひとりというわけではない。


 正真正銘、現公爵だった。


 仲介者の名は、デリク・ブラックストン。


 彼は、たいていの上位貴族の男性が、きれいに年齢を重ねたときの外見をしている。


 つまり、かっぷくのよすぎて穏やかで鷹揚な感じである。


 デリクは、奥さんのクラリスとともに歓迎してくれた。


 クラリスは、初老のデリクよりかは二十歳ほど離れていそうなほど若い。もっとも、若作りなのかもしれない。いずれにせよ、見た目は三十代後半。見ようによっては、三十代前半に見えなくもない。


 クラリスは、とにかく美しい。同性のわたしでもしばし見惚れてしまったほどである。顔の美しさだけではない。出るところはちゃんと出ている。さらには、ファッションセンスも抜群で、マクレイ国の上流階級で流行っているであろうドレスに身を包んでいる。


 デリクとクラリス。


 ふたりは、控えめにいっても釣り合いがとれていない。


 これでおたがいに初婚だとしたら、ぶっとぶほどのビックリだろう。


 よくあるように、デリクは最初の妻か二番目の妻と死別、もしくはなんらかの事情で離縁し、再婚か再再婚かしたに違いない。クラリスもまた、彼女の容貌から再婚か再再婚かもしれない。


 とはいえ、デリクとクラリスは、見た目こそちぐはぐではあるけれど、おたがいに愛し合っていることにかわりない。それが、ふたりの言葉や行動の端々に見て取れる。


 不覚にも、うらやましいと思ってしまった。


「死んだ夫とこうしていられたらよかったのに」と、さらに女々しいことを思ってしまった。


 挨拶の後、さっそく夕食をいただいた。


 貴族世界のトップである彼らは、素材の味や栄養を損なったような料理は好みではないらしい。


 というわけで、おおきな食堂の長い長いテーブルでのブラックストン公爵家での夕食は、書物に出てくるような豪華絢爛な料理の数々ではなかった。


 サラダに煮込み料理にパイにパスタ。それから、焼き立てのパン。


 旅の途中、宿屋の食堂で食べたメニューと同じである。そこにパスタが加わったくらいである。


 充分である。とにかく、美味しかったから。


 三年もの間、豪快かつシンプルな料理しか食べていなかったから、なんでも美味しく感じるだけだろう、と思われるかもしれない。が、それを抜きにしても美味しすぎる。


 心のこもった料理の数々に、公爵子息の妻という立場を忘れ、貪り食べてしまった。


 宿屋のときと同じように。


 屋敷に戻ったら、大佐に叱られる。


 そうとわかっていながら、とにかくナイフとフォークを動かし続けた。けっして止まらなかった。いや、止まりそうになかった。 


 大佐はわたしの左隣で上品に食べていたが、ずっとわたしを睨んでいた。


 公爵夫妻の手前、知的な美貌にはポーカーフェイスが保たれていた。


 が、彼の視線はめちゃくちゃ痛かった。


 怒りの圧がすごかった。

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