使用人? いいえ、監視人たち
使用人たちとは、朝食の前にあらためて挨拶を交わした。
使用人を演じる四名の監視者たちは、わたしをうならせるほどそれぞれの役を完璧に演じている。
わたしも負けてはいられない。
「すでに聞いているかと思いますが、わたしは元軍人です。ですから、貴族令嬢だとか貴族の妻にはほど遠く、粗野で不器用なのです。ドレスさえ、着こなす自信がありません。今後、マクレイ国の貴族の方々とのお付き合いもありますが、恥をかく場面があると断言できます」
大佐は、わたしの冗談に大笑いした。すると、使用人たちも控えめに笑う。
冗談を言って笑いを取るのが目的ではない。じつは、冗談っぽく言って真実を伝えたかっただけである。
「というわけで、今後、わたしのことで他の屋敷の使用人たちからバカにされるかもしれません。いまのうちに謝罪しておきます。それから、あらためてよろしくお願いします。この国で生活するにあたり、みなさんの助けが必要となります。どうかみなさん。夫とわたしにみなさんの知識や能力を貸してください」
深々と頭を下げておいた。
下手にでるつもりはない。
しかし、大佐とわたしが動きやすよう、彼らにいい印象を与えておきたい。
「妻の言う通りだ。このマクレイ国のことはなにもわからない。妻とわたしにみんなの知恵を借りたい。情報を与えてもらいたい。わたしはともかく、妻にはすこしでも快適に生活をしてもらいたいから。もちろん、それだけのことは報いるつもりだ」
「あなた……」
大佐も抜かりない。わたしに合わせてきた。
わたしたちは夫を思い、妻を思い合う仲のいい夫婦で、使用人にたいしてもいい主人であることを彼らに印象付けられたはず。
「奥様、旦那様。わたしたちは、最初からおふたりに誠心誠意尽くすつもりです。おふたりがこのマクレイ国でよりよい生活を送れるよう、微力ながらお仕えさせていただきます」
執事のフィリップ・レイトンも抜かりはない。
彼が言い、四人は同時に頭を下げた。
あとは、メイドのふたりをよりいっそう懐柔しておきたい。
味方に、とまではいかなくても、よろこんで情報を流してくれるような関係を築いておかなければならない。
メイドのカミラ・パーキンズとナンシー・スナイドルに全力の笑顔を向けつつ、内心で気合を入れた。




