アンティーク調のわが家
大佐は、万事抜かりなかった。
仲介者を通じ、マクレイ国の国都ロースソーンに屋敷を準備していた。
屋敷は、どこにでもある上流階級の住まう一等地のはずれにあった。外観は、歴史ある建物である。それも超がつくほどに。
といえば、アンティーク調のおしゃれなイメージだけれど、実際は古くてボロボロでさほどおおきくはない建物である。
情報を敵国に流している上に武器の横流しまでしている公爵家の四男坊の落ち着き先なら、このくらいが妥当なのかもしれない。
とはいえ、マクレイ国は、つまらない内容とはいえ情報を流している大佐をさほど重要視していないのかもしれない。
軽く見ているか、どうでもいい存在のように扱っているのかもしれない。
それでも、わたしたちにすればマクレイ国に潜入することこそが目的のひとつ。ここからさらなる目的を果たしていく。たとえ環境が悪くても、それを逆に利用すればいいだけのこと。
屋敷じたいは古くてボロボロだけれど、けっして住めないほどヤバいというわけではない。すでに使用人たちが掃除や修復をしていてくれたお蔭で、ふつうに生活するにはまったく問題はなさそう。
ご近所さんたちは、上流貴族ばかりのようである。そんなおおきな敷地の鬱蒼とした森に囲まれている。
これならは、わたしたちの存在は目立たない。ということは、活動しやすいだろう。
仲介者が雇った使用人は、全部で四名。執事と料理人とメイドがふたり。
そのだれもが、わたしたちを監視する為の同業者である。彼らをひとめ見、すぐにわかった。
もっとも、それは想定内。こちらも覚悟はしている。その為の心構えや準備は整っている。
到着したその日は遅かったので、少佐たち運搬役は泊って翌朝帰国した。
最後まで、少佐とは挨拶等必要最低限のこと以外は口をきかなかった。
ついでにいうと、彼に心の内をのぞかれたり、こちらが彼の心を読んだりということもなかった。
結局、例の夜に少佐がなにを伝えたかったのかわからずじまいだった。
彼から受けた屈辱のことがある。好奇心と興味より、怒りや憎しみの方が勝った。
それに大佐の目もある。
少佐に尋ねることはしなかった。
心と頭にひっかかっていた。モヤモヤもしていた。
しかし、それでも尋ねることができなかった。
つまらない矜持のせいか、あるいは意地か。
とにかく、わからないまま別れた。
少佐たちは、去った。
これが今生の別れになったとしても、それはそれでいい。
しかし、それならそれでクソッたれの少佐を殴るか蹴るかしたかった。
それどころか、物理的精神的に再起不能にしてやりたかった。
受けた屈辱にたいして、それなりの報復をしたかった。
それが本音である。




