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敵国へとやってきた

 朝食のときに、宿屋の一階の食堂兼バーでみんなと合流した。


 大佐はともかく、クソッたれの少佐はなにごともなかったかのようにふつうに挨拶をしてきた。彼は、まったく悪びれることはなかった。それどころか、バツの悪い様子さえみせなかった。


 彼の野性的な美貌を目の当たりにした瞬間、薄暗闇でのことが頭と心の中によぎった。


 あのときの自分の体の反応を思い出してしまった。


 恥ずかしさよりも心の底から怒りが、いや、憎しみがこみ上げてきた。


 クソッたれの少佐にたいして。いや、それよりも自分自身にたいして。


 が、それをすぐに打ち消した。そうしなければならないからである。


 そして、わたしもなにごともなかったかのように振る舞った。


 笑顔で挨拶を返しつつ、クソッたれの少佐にたいする憎しみを打ち消した。


 それと同時に、いくつかの疑問と得体の知れぬ不安をも打ち消さねばならなかった。



 旅は、何事もなかった。


 あの深夜のことをのぞいては。


 国境でさえ、足止めされるとか詮議されるとか、そういったおおきなトラブルはなかった。


 さすがに、すんなり通過できたわけではなかった。それでも、大佐が抜かりなく手配していたお蔭で、想像していたよりも簡単に通過できた。


 戦時中とはいえ、ほぼ停戦状態である。それぞれの国境警備隊は、軍同様たるみきっている。それも功を奏したのかもしれない。


 マクレイ国に入ってからは、よりいっそう完璧に妻役を演じた。


 さらに一泊したが、その宿屋で取れた部屋は、ありがたいことかなり狭かった。狭い部屋におしこめられた寝台が二台。当然、同じ寝台でふたりで横になれるわけはない。ましてや、その上でエクササイズなどありえない。大佐とは、それぞれの寝台の上に横になって一夜をすごした。


 その夜もまた、眠ることができなかった。


 大佐?


 彼もまた、眠ってはないない。というか、彼もウトウトした程度であろう。


 いずれにせよ、任務中は熟睡や爆睡できるものではない。


 そんな一夜をすごした最終日、やっと敵国での拠点となる屋敷に到着した。


 これからは、亡命者夫婦として生活することになるのだ。


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