表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
172/172

【最終話】ぜったいにベンとしあわせになるのよ

『おいおい、シヅ。おまえは。あいかわらず好きだな』

『ええ。大好きよ、あなたとのエクササイズは』

『それは、すべてが終わってからだ。いまは集中しろ。エクセサイズはお預けだが、おまえにはおれがいることにかわりはない。オールドリッチ王国にはいっしょに行くからな。暗殺部隊は、サミュエルとおれがいれば当面は襲ってくることはないだろう。あとは、腕と暗示でどうにかなるはずだ。いや、どうにかする。おまえを守るために。そして、おまえをしあわせにするために』

『待って。あなたは? これからどうするの? わたしを守り抜いたあと、あなたはどうするつもりなの?』


 カーティスやエレノアの暗示を解けば、エレノアは苦しむことになる。忌まわしい過去を思い出し、一生苦しめられることになる。


 わたしだったら、そんな過去に耐えられない。


 自分の父親に犯され、子をなすなどという過去に。


 しかし、やはりわたしもこのままベンを諦めることはできない。彼をエレノアに譲るつもりはない。


(そうよ。なにかしらの策はあるわ。たとえば、ベンがエレノアとニックにあらたな記憶を与えるとか。わたしがされてきたように)


 ぜったいにわなにかしらの手はある。


 ベンとわたしとで探せばいい。


 まだ時間はあるのだから。


『シヅ、だからまずはおまえ自身のことを考えてくれ。頼むよ』

『まぁ、忘れてたわ。ベン、ごめんなさい。大丈夫。どうにかなるから。いえ、どうにかしてくれるんでしょう? いままでのように。そして、これからも。そうよね、ベン?』

『まいったな。だが、大丈夫だ。おれがいる。だから、おまえは大丈夫だ』

『愛しているわよ、ベン』


 おもわず、一番伝えたかったことを伝えていた。


『おれも……』


 そして、ベンが心の中で言いかけた瞬間である。


「なにを見つめ合っている? カイル。エレノアがすぐ側にいるのに、こんなちんちくりんなレディを見つめてどうしようというのだ? グワッ!」


 よりにもよって大佐が邪魔をしてきた。


 だから、全力で足を踏んでやった。


「では、詳細を詰めよう。行動は、早ければはやいほどいいからね」


 サミュエルの提案である。


 この瞬間から、あらたな局面を迎えた。


 しかも超ハードな局面を、だ。


 あれだけ死んでもいいと思っていたのに、いまは生き抜くことしか考えていない。


 どんな敵が立ちはだかろうと道をふさがれようと、しぶとく生き残ってみせる。そして、しあわせになるのだ。


 夫ベンとともに。


 もちろん、親友であるエレノアとニックもしあわせになってほしい。だから、その努力もするつもり。


 でも、わたしが一番。


 わたしには、それだけの権利はある。


 ちょっと遅れたけれど、ベンにしあわせにしてもらう権利はあるのだ。


 レディはやはり、愛する人とその子どもとしあわせにならなければならない。


 いいや。しあわせになるべきなのだ。


 大国の女王になるより、世界一の諜報員になるより、ひとりの男性の妻に、その子どもの母になるべきなのだ。


 しあわせは、もう目の前だ。


 もうすぐしたら、ベンとしあわせになれる。


 おそらく、だけど。


 心からそう願っておこう。


『強く願えばぜったいにかなう』


 それは、ベンの持論の一つ。


 いまは、わたしの持論のひとつでもある。


『ねぇそうよね、ベン?』


 ベンの真剣な横顔に、そう心から呼びかけた。



                                     (了) 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ