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エレノアの正体

「きみも出て行きたまえ」


 サミュエルは、少佐に顎で開いたままの扉を示した。


 それを見た瞬間、彼が少佐の名を呼んだことがないことに気がついた。


 少佐の名を知らないのか、あるいは歯牙にもかけていないのか。そのどちらかだろう。


「しかし、おれは……」

「きみの役割は、シヅの大切な人たちを守ることであって、われわれの話に参加することではない」


 少佐は、サミュエルにピシャリと命じた。命じられた少佐は、肩を落として追ってしぶしぶ部屋を出て行った。


「彼は、役立たずだ。というよりか、信用ができない。ああ、心配しなくていい。捨て駒は、不都合があれば捨てればいいだけのこと。デニスがうまく処分してくれる」


 サミュエルのやわらかい笑みにゾッとした。


 あとで大佐から聞いたことだけど、少佐はわたしが現役時代の頃から敵を中心にいろいろな人物に情報を売ったり、任務外で暗殺を請け負ったりして小銭を稼いでいたらしい。大佐がそんな少佐を処分しなかったのは、いざというときに彼にすべての責任をおしつける、もしくは犯人に仕立てあげるためにわざと好き放題させていたという。


 つまり、大佐は少佐を自分のスケープゴートに仕立て上げるため、目をつむっていたのだ。


 妙に納得してしまった。


 そして、少佐はいまもオールドリッチ王国の暗殺部隊にいつ寝返るかもしれない。あるいは、マクレイ国の他の王子たちに媚びを売りはじめるかもしれない。


 ああいう男は、いつかしっぺ返しを食らう。ぜったいに。確実に。しかも、悲惨で無残な末路を迎えるのだ。


「それで? エレノアとニックは、あなたのほんとうの妻子ではないのよね、カイル?」


 まだしつこく尋ねると思われるだろうが、いまのも質問ではない。確認、である。真実の確認、といった方がいいだろう。


「彼女は、おれの妹だ。そして、ニックは国王の子だ」


 カイルではなく、カーティスが言った。


「えっと……」


 カーティスの言ったことがすぐには理解できなかった。頭の中で反芻し、そこではじめて理解した。


 同時に愕然とした。


「国王は、よりにもよって自分の子ではないと言い張り、認めようとしない。じつは、おれと妹は正妃や側妃の子ではなく侍女の子だ。国王は、おれのことはまだしも、もともと女の子であるエレノアのことは認めなかった。しかし、性欲の相手としては恰好の的だったわけだ。無理やりだぞ」


 カーティスの絞り出すようなその苦し気な告白に、彼の真意のもうひとつの理由を知った。


 国王への復讐、である。


「おれが暗示をかけた。おれが夫で、おれたちは幼い頃からいっしょになる運命だったということを。そして、ニックが産まれた」


 カイルは、カーティスの言葉を継ぐように続きを説明した。


 そのとき、そのカイルと視線が合った。


 その瞬間、彼の心を読むことができた。


 というよりか、彼に心を読まされた。


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