謎の人物サミュエルとキラキラ王子の関係
「カーティス、きみの彼女にたいする気持ちが本物ならば同情は禁じ得ないがね。いずれにせよ、いまは危急のとき。いまきみたちがすべきことは、このピンチを回避する策を講じることだと思うがね」
サミュエルの言う通りである。
このままだと、最強の暗殺部隊に殺されてしまう。
というか、その明確な理由もわからないまま殺される義理も義務もない。
もっとも、全面対決となるとがぜん興奮してくる。
この前の夜は、ひとりだった。しかし、いまはカイルが、いや、ベンがいる。
ひとりなら無理かもしれないが、ベンさえいれば負けることはない。
負けは、もちろん死を意味する。
ベンさえいれば、むざむざ殺されることはない。
彼さえいれば、わたしはどんなことがあっても戦える。
彼に守ってもらうわけではない。ましてやわたしのために命を懸けて死力を尽くしてもらうわけでも。わたしが彼を守りたい、とがんばれるのだ。彼を死なせないために、力を振り絞れるのだ。
彼のためならば、わたしは死してさえ蘇って戦える自信がある。
「サミュエル、あなたにはその策があるのではないですか? というか、そろそろこの前の続きを教えてもらえませんか? あなたが閣下と、いえ、カーティスと知り合いだったのだとか、カーティスと大佐はもともと組んでいたのだとか、そういうところも含めて。あなたとわたしが知り合いだということも、彼らは驚いていないですし」
事情が分からないと、今後の対策を立てようにも立てられない。
もっとも、一番いいのはこのまま逃げることにきまっている。さっさとマクレイ国を去って祖国に戻るか、まったく関係のない国に行って隠れることだ。
「残念ながら、カーティスときみの元上司がどういう取り決めをしているのかはわからない。もっとも、想像はつくがね。わたしとカーティスの関係については単純だ」
サミュエルの渋カッコいい顔にいたずらっぽい笑みが浮かんだ。
(年寄りになってもこんなに可愛い表情ができたらいいわよね)
場違いにもサミュエルのその表情に癒された。
「わたしは、彼の剣の師だ」
「剣の師? ああ、なるほど」
そのときはじめて、杖を握るサミュエルの両手が痩せている老人のそれにしては皺がすくなく、分厚く立派なことに気がついた。
そして、カーティスが彼にたいして神妙なことにも納得ができた。
「それはわかりました。大佐は? カーティスに飼われているんですか? 彼は祖国を売り、部下を裏切ってどんな報酬が与えられるのです? いや、与えられたのです? いま彼がカーティスの側近に成り下がっているのも、その報酬のひとつですか? それにしては、代償がおおきくないですか? 命、ですものね。これならまだ、祖国で諜報部のトップを気取っていた方がよかったのでは? やろうと思えば、祖国でもっと上を狙えたでしょうし。わたしたち、それをできるだけのあらゆる情報を握っていますし、腕もありますから。それを捨ててまで、カーティスを取るメリットはあったのでしょうか?」
もろもろのことをいっきに吐き出した。
いっきすぎて、肩で息をしなくてはいけなくなった。




