「きみのため」と「おまえのため」って、どういうこと?
(また面白くなってきたわ)
カーティスと大佐が取っ組み合いのケンカなりそうなのを見、ニヤニヤしてしまっていた。
自分のトラブルや揉め事は勘弁してもらいたいけれど、他人のそれらを見るのは嫌いではない。
(わたしって、イヤーなレディよね?)
つくづく思う。
「なにがおかしい?」
「なにがおかしいんだ?」
カーティスと大佐が、同時にこちらを向いてニヤニヤ笑いを指摘してきた。
「だって、揉めてるのって面白いんですもの」
「笑っている場合か? きみのためのケンカだぞ」
「ヘラヘラしている場合か? おまえのために揉めているんだぞ」
そして、彼らは同時にわたしへと矛先を向けた。
「は? え? わたし? どうして?」
「きみのため」とか「おまえのため」って、どういうこと?
「まさか気がついていないのか?」
驚愕の叫びをあげたのは、当のカーティスと大佐ではなかった。
それは、謎の人物サミュエルだ。
彼は、杖でカーティスと大佐を指した。
「ふたりは、きみをたいそう気に入っているようだ。カーティスにいたっては、きみを利用するつもりだったのに、その気持ちをかえてしまうほど気に入っているらしい。きみにたいする気持ちに関しては、きみの元上司もカーティスに負けてはいないだろう」
「ああ、なるほど。気に入っていただけて光栄ですが、それで揉める必要はないと思います」
「シヅ、ここまで言ってもまだ気がつかないのか? どうやらきみは、そうとう鈍感、いや失礼。人のそういう気持ちや感情にはうといようだ」
「そうですね。人の気持ちは、プライベートでも任務中でも極力考えないようにしています。だってほら、いろいろ面倒臭いでしょう?」
両肩をすくめた。
厳密には、他人の感情や思いにふりまわされたくないのだ。
ただし、それもベンだけは別。彼の気持ちは最優先だし、感情だって同様に「ファースト」である。
ベンにだけは、ふりまわされてもいい。
いいや。ふりまわされたいくらいだ。
「ハハハ! これは面白い。おっと失礼。またもや失言だ。いや、たしかにその通りだ。というわけだ、おふたりさん。いくらきみらが揉めようと殴り合おうと、彼女はきみらにはまったく興味がない。そういう気持ちや感情においては、な。それに、彼女にはそういう気持ちや感情を大切にする相手がいるからな。どだいムダなことだ」
サミュエルが諭すと、カーティスと大佐はとりあえず離れてこれまでいた場所へと戻った。
とはいえ、ふたりとも心から納得しているふうではないけれど。




