キラキラ王子の人生最大のピンチ
「まぁいい。カーティス、わたしもきみの答えを求めているわけではないのでね。いずれにせよ、国王と王妃もきみを王太子にするという考えをあらためさせられることになる。ということは、決定事項は覆される。保留ではない。決定したこと、つまりきみの王太子、ひいては次期国王を継ぐという話はなくなるわけだ。もっとも、きみの立太子のことはまだ公式に発表されたわけではない。あくまでも宮殿内で騒がれた程度のこと。噂話や誤報、で片付けられることだろう。それは問題ない。問題は、いまからきみは王太子の座に就くどころか反逆者となることだ。他の王子や宰相やその他もろもろ、きみをよく思っていない連中によって、きみは謀反を起こした王子、いや、将軍に祭り上げられることになる。将軍として活躍していたことが仇になったな。軍を率いて謀反を起こすと、すでに噂が立っている。さきほどは、オールドリッチ王国の暗殺者たちの脅威にさらされると言ったが、それより前に身内に破滅させられるだろう。そうなれば、かの国の暗殺者たちの出る幕はないというわけだ」
サミュエルは、淡々と語った。
それは推測や予言などではない。事実であり現実なのだ。
そして、カーティス謀反の噂を流したのは、他の王子やカーティスの政敵などではなく、サミュエル自身だということを直感した。
おそらく、カーティス自身も気がついているだろう。
カーティスは、ムダに整理整頓された机上を見つめたままその美貌を上げることはなかった。
彼は、うめき声ひとつ上げなかった。
「カーティス。きみは自分の野心のためだけにシヅをだまし、利用するだけ利用するつもりだったのだろう? 国民のため、ひいては国のためといえば、人がよくて義理堅い彼女が従ってくれると考えたのだろう?」
サミュエルは容赦ない。
(というか、わたしが人がいい? 義理堅い?)
サミュエルがそんなふうにわたしを理解しているとは驚きである。
しかし、元諜報員としてはあまりうれしい評価ではない。
(やはり、カーティスの真意は別にあったのね。なにが国民のためにはやく戦争を終わらせたい、よ。結局は、自分の野心と欲望のためじゃない。とはいえ、わたしを利用するってどう利用するつもりだったのかしら)
カーティスは、たしかに戦勝終結にはわたしの力が必要、みたいなことを言っていた。あのときには、ただ単純に元諜報員としての経験や能力のことを指すのかと思っていた。それらを駆使し、彼のために働かされるのだとばかり考えていた。
しかし、それはわたしの勘違いだったわけだ。
カーティスは、わたしの経験や能力を利用したいわけではなかったのだ。
彼はわたしの真相を、真実のわたしを利用し、自分の野望をかなえようとしたのだ。




