わたしが謎の人物サミュエルと知り合いだと驚かないのね
「シヅ、座りなさい」
再度、サミュエルの言葉が背中にあたって大理石風の床に落ちた。
彼とカイルにこれだけ言われ、それでも反発して出ていくわけにはいかない。
仕方がない、という感を醸し出しつつ座り直した。
すると、ずっと座って傍観者然としていた大佐が小さく鼻を鳴らした。
一瞬、その大佐をぶん殴りたい衝動に駆られた。その荒っぽい衝動をごまかすために、大佐からカーティスへと意識を向けた。
彼はさきほどとかわらず美貌を真っ白に染め、親指の爪を「ガジガジ」しつつ室内を行ったり来たりしている。
その子どもっぽい動作は、しばらく前までの自信と威厳に満ちた将軍の、あるいは王太子になったばかりの彼の得意げな姿とはまったく真逆の姿である。
そのとき、ふと気がついた。
(そういえば、サミュエルとカーティスが知り合いどうしということにわたしは驚いたけれど、サミュエルとわたしが顔見知りだということを、カーティスとカイルはまったく驚いていないわよね)
そのことに。
もしかすると、先日ライオネルを介してサミュエルとわたしが密会したことがバレていたのかもしれない。
ライオネルの馬車でサミュエルの屋敷に行った。あのときは、馬車内でライオネルとふたりきりでムダに気を遣ったりまわしたりしていた。だから、「ザ・エージェント」の監視の目に気がつかなかったのかもしれない。それをいうなら、オールドリッチ王国の暗殺者たちの監視の目もあったに違いない。それさえも気がつかなかった。
「カーティス、きみも座りたまえ」
ウロウロされて鬱陶しいのはだれもが同じである。
カーティスは、サミュエルに命じられて執務机の向こうにまわり、椅子に腰かけた。
「カーティス、物事には順序とタイミングがある。それなのに、きみはどうしてそう急ぎすぎたのだ?」
サミュエルの問いに、カーティスは組んだ手に額をのせてうつむいただけだった。




