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『愛する人たち』と『愛する人』

「カイル、どうして邪魔をするの? あなたが心から愛しているエレノアとニックだって襲われるかもしれないのよ?」


 せめて落ち着いているふりでもしなければ、とがんばるつもりはない。全力でカイルを責めていた。


「カイル、ふたりはあなたの愛する妻と子でしょう? あなたが愛しているだけじゃない。エレノアとニックだって、この世であなたのことを一番愛しているのよ。そのふたりの身に危険が迫っている。そうなんでしょう?」


 カイルがあまりにも落ち着き払っているものだから、わたしの解釈が誤っているのかとちょっとだけ不安になった。だから、彼を責めつつもさりげなく確認してしまった。


 まだそんなことに気がつくだけの冷静さが残っていたことに、自分でも驚いた。


「そうだ。しかし、手は打ってある。だから、落ち着くんだ」


 わたしの解釈は、その彼の返答で間違っていなかったことがわかった。もっとも、だからといってちっともうれしくないけれど。


 それよりも、見つめ合う彼のルビー色の瞳にわたしがはっきり映っている。


 そうと認識できるだけ、余裕があるということ。いいや。気持ちが落ち着いてきたらしい。


 が、それはなけなしの余裕である。残りカス、みたいなものだ。


「ちゃんと手は打っているんだ」


 カイルは、ムカつきイライラするほど冷静である。


 彼は、冷静さを装っているわけではない。ほんとうに冷静なのだ。


(どうしてそんなに冷静でいられるの?)


 心の中で尋ねていた。


 カイルなら、いや、ベンならば、いまのわたしの心の中で彼にした質問を読むことができたはず。


 が、彼は答えなかった。


 口頭でも、そして心の中でも。


 カイルは、サミュエルの話を信じていないのか、もしくは過小評価しているのか?


 もしかすると、わたしを落ち着かせようとでまかせを言ったのかもしれない。


(そうよ。わたしをここにいさせるために嘘をついたのよ)


 そう結論した。


 それなら、あり得る話だ。もっとも、それは納得はできないし、なんなら彼をぶん殴ってでもここから出ていくけれど。


「でまかせや強がりではない。過小評価をしているわけでもな」


 なんと、カイルはわたしの心を読んだのだ。


「ほんとうに手を打っている。きみの、いや、おれの愛する人たちを、むざむざ殺させるようなことはぜったいにさせない」


 いまのカイルの宣言は、聞いたことがある。


 カイルが、いや、ベンが言ったのだ。


 任務でピンチを迎えたときに、である。


 ただし、「愛する人たち」のところが違ったけれど。


『愛する人』


 そう言った。


 それは、わたしだけの言葉だった。わたしにたいしての言葉だった。


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