キラキラ王子はやりすぎた
「カーティス。きみがオールドリッチ王国に潜入させた自慢の『ザ・エージェント』の面々がどうなったかは、さすがのきみでもわかるだろう? 消されたのは、もはや警告ではない。さらには、宣戦布告でもな。きみの未来だ。しかも、すぐ直近のだ」
サミュエルは、わたしが彼にはじめて会ったときと同じように両手で杖を握っている。
その杖が仕込み杖であることを、最初のときに気がついていた。
「カーティス、きみはやりすぎた。すべてを敵にまわし、もはやその命は風前の灯だ」
サミュエルの口から出てくるのは、カーティスの死が確実である言葉ばかりである。
「他の王子たちは、こぞってオールドリッチ王国の連中と手を組んだ。すでにこの王宮にも手がまわっている。それから、きみの関係者にもな」
つぎからつぎへと続く悲報に、さすがのカーティスの美貌が青色へ、さらには白色へと変色していく。
「かの国には、暗殺部隊があってな。それは、じつにしつこい。やっかいな相手だ。狙われれば、ぜったいに命はない。それがいま、きみの喉元へと迫っている。きみら若者の言葉で言えば、『ロックオンされている』、かな?」
「それならば、『ザ・エージェント』が迎え撃って……」
「おいおい、わたしの話をきいていなかったのか? きみのエージェントたちも危ないぞ。すでに何名かは殺されているかもしれん」
「なんですって?」
おもわず叫んでいた。
カーティスはともかく、わが家の使用人たちにまで害が及んでいる? それだけではない。デニスやクラリス、それからエレノアやニックにまで危険が迫っているというの?
それは困る。というか、めちゃくちゃヤバい。
無意識の内に立ち上がっていた。
すぐにでもここから出ていきたい。
そして、みんなのところに行きたい。
みんなを助けなければ。みんなを救わなければ。
使命感などではない。それだけはいえる。
では、どうしてそう思うのか?
おそらくは情なのだろう。
これもまた、この世界では必要のないものだ。やはり、わたしはダメダメになっている。
気がつけば、開いたままの扉に向っていた。駆けださず、足早に。
そのわたしの前にカイルが立ちはだかった。
「シヅ、落ち着きなさい」
同時に、背中にサミュエルの声があたった。
ムカつくほど落ち着いた声は、わたしの心を鎮めるどころかよりいっそう焦らせただけだった。
「シヅ、戻って座るんだ」
そして、目の前のカイルもまた、ムダに落ち着きはらっている。
それもまた、気に入らない。




