謎の人物サミュエル登場
「クソッ」
カーティスは、ちいさく舌打ちした。
「自業自得というやつだな、カーティス王子。いや、王太子殿下かな?」
開いたままの扉から、だれかが入ってきた。
杖をつき、うしろに小太りでテカテカ顔の男を従えている。
「サミュエル老……」
カーティスのきれいな形と色の唇から、その名が溺れ落ちた。
王宮の客殿のこの部屋にふつうに入ってきたのは、謎の人物サミュエルとエレンの気弱な旦那のライオネルだった。
(どうしてサミュエルとライオネルがここに?)
(どうやってここに?)
(カーティスと知り合いなの?)
(だとしたら、どういう関係?)
などなど……。
謎と疑問が錯綜し、混乱と困惑が彩を添える。
あまりにもわけがわからなさすぎる。
しかも、どうもわたしだけがほとんどなにも知らない、知らされていない気がする。
仲間外れ感が半端ない。
だんだんどうでもよくなってきた。
(わたしにはかまわず、自分たちで好きなようにやってちょうだい。わたしのことは、どうかそっとしておいてちょうだい)
そんな気になるのは当然よね?
謎の人物サミュエルにどうやって会おうかと悩んでいた自分がバカみたい。
そんな必要などなかったのだ。
とはいえ、サミュエルもカーティスと直接対決するつもりはなかったに違いない。
すべては、カーティスの暴走のせいに違いない。彼がことを急ぎすぎたのがいけなかったのだろう。
つまり、カーティスがわたしと婚儀を執り行うという触れを出さなければ、というか、そのように仕向けなければ、サミュエルが登場することはなかったのである。
なにより、ムダに「ザ・エージェント」のエージェントたちを死なせずにすんだのだ。
これはもう、完璧なまでにカーティスの落ち度である。いや、彼の失態だ。
「カーティス。もはや若気の至り、ではすまなくなったな」
サミュエルは、ひとり掛けの椅子に座った。初老でありながら、その威厳はまるで偉大なる王のようだ。
将来のカーティスを想像より、よほど王っぽく見える。
ひとり掛けの椅子は、大佐が他の部屋から運んできた。
小間使いのようにこき使われる彼が気の毒でならない。
とはいえ、心から気の毒には思っていない。それよりも「ざまぁみろ」って思う。
とにかく、カーティスのキラキラ具合は、サミュエルの前ではその光り方が控えめである。もしかすると、ライオネルの肌のテカリ具合の方が目立っているかもしれない。




