凶報
国王と王妃への謁見は回避できた。しかし、このまますぐに本殿から出ていくわけにはいかない。
集まっていた宮殿内の人たちは、それぞれの持ち場やいるべき場所へ戻って行っただろう。こんなにはやくだれかに見られたら、「あれ?」と思われてしまう。
というわけで、結局王族の居住区域の奥にある隠し通路から客殿へ移動することになった。
その隠し通路は、危急の際に王族が逃れるための通路である。ありがたいことに、その隠し通路は客殿の地下を通っているらしい。
それを使い、カーティスとわたしは客殿のカーティスが使っている部屋へと移動した。
隠し通路じたいは、どこの国の支配者たちのものとかわりのないオーソドックスなものだった。
カーティスが執務室として使用している部屋の長椅子におもいっきり腰をかけ、背もたれに背中をあずけると、いっきに疲労感が襲ってきた。
これまで種々雑多なトラブルに見舞われてきたわたしだけれど、さすがにこういうトラブルはいままでになかった。
疲れ知らずのタフを気取っているが、すっかり疲れてしまった。
カーティスは、わたしと視線を合わせるどころか美貌を背けたままいそいそとお茶を淹れている。
疲れている場合ではない。ましてやトラブルを回避できたとホッとしているわけにはいかない。
(とっちめなきゃ。というか、問い詰めないと)
心の中で気合いを入れ直した瞬間である。
「コンコン」
それに水を差すかのように、扉がノックされた。
カーティスの許可を得て部屋に入ってきたのは、もちろん大佐とカイルである。
大佐は、すっかりカーティスの部下になってしまっている。
というよりか、犬に成り下がっている。
彼は、任務を忘れたのだ。
というよりか、最初から任務などどうでもよかったのだ。
それをいうなら、そもそも任務じたいがあったのかどうかさえ疑わしい。
いや。なかったのだ。本来の意味での任務は、最初からなかったのだ。
わたしは、最初から彼に騙されていたのだ。
「閣下」
そう切り出したカイルの表情はかなり厳しい。
その厳しい表情から、彼がいまから報告する内容がけっしていいものではないことがうかがえる。
「オールドリッチ王国に潜入しているメンバーが、ことごとく消えました。連絡が途絶えています」
やはり、いい報告ではなかった。
メンバーというのは、「ザ・エージェント」のエージェントたちであることはいうまでもない。
「途絶えた?」
カーティスのお茶を淹れる手が止まった。
「はやい話が、抹殺されたということです」
「なんだって? なぜ……」
カーティスは、言いかけて言葉を止めた。
彼は、自分の自慢のエージェントたちがむざむざ殺された理由に気がついたのだ。




