断固、拒否します
「シヅ。きみにはゆっくり説明するつもりだった。が、先程言った通り国王と王妃が先走り、勝手に王宮内に触れを出してしまったのだ」
カーティスは、わたしを解放すると声量をおさえて言い訳をはじめた。
虚言を織り交ぜつつ。
「まさか一夜明けるとこんな事態になっているとは……。客殿にいるので、気がつかなかったわけだ」
彼は、さらに虚言を重ねる。
「どうして妻を娶るだけで王太子になれるの?」
「いくら他の王子が役立たずで王太子、ひいては国王の器ではないけれど……。カーティス、あなたはもともと王位継承権に近い存在ではないのに、どうしてなの?」
いろいろツッコむところはある。
個人的には、一番ツッコミたいのはこれである。
「妻だったらだれでもいいわけ? たとえば、敵国の人間でも? しかも元諜報員よ。夫がいる上にその夫は、この国に潜入した諜報員なのに? カーティス。その夫は、現在あなたの片腕をきどっているのに?」
これである。
ほんとうの夫ベンのことはともかく、わたしがカーティスの妻にふさわしいわけはない。
ふさわしくないというよりか、完璧にアウトである。
そう。ふつうなら、完璧にアウトなのだ。
ふつうなら……。
しかし、わたしはふつうではない。
ふつうではないのである。
すくなくとも、彼ら、とくにカーティスにとっては、わたしは利用できる道具である。本来の意味での妻としてではなく、彼らにとって都合のいい存在なのだ。
カーティスにとって、わたしはふつうではない特別な存在なのである。
彼は、この期に及んでまだそのことを明かそうとしない。
それが気に入らない。
「シヅ。とにかく、国王と王妃に会って欲しい。くわしくは、それからだ」
「とにかく、会いたくありません。急に具合が悪くなりました。緊張しすぎて吐き気や頭痛やめまいや動悸が激しくなりました。だから、体調を整えてあらためてお会いします、ということにすれば、だれにとっても不都合はないでしょう? というか、そうしてもらいます。そうでなければ、このまま国王と王妃のもとへ走って行ってはっきり告げます。『王子殿下と婚儀? 冗談じゃないですわ』、と」
脅しである。
声量こそおさえたものの、これ以上にない拒絶と決意を声ににじませた。
「わかった」
カーティスは、あっさり了承した。あっさりすぎて、了承されたのだとは思わなかった。
というか、逆に「それでほんとに大丈夫なの?」と、心配しそうになったほどだ。
もっとも、わたしにとってはそんな彼の物わかりのよさ、というか人のよさは思うツボであることはいうまでもない。




