わけがわからなさすぎる
「ちょちょちょちょっ、閣下、わたしは入れません。というか、入りたくません」
イヤな予感がさらに増してうなじの危険指数がさらに上がる中、カーティスに取られている方の手をひいて彼に囁いた。
「閣下、まず説明をお願いします。そうでないと、なにがなんでもここから動きません」
もしもわたしがなにがなんでもここから動かなければ、目の前で佇立している近衛兵がわたしを連れて行くだろう。お姫様抱っこというよりか、麻袋みたいに肩に担いで。
「すまない。国王と王妃が勘違いしてね。すっかり舞い上がっているんだ。気がついたら、こんなことになっていた。シヅ、きみはすでにマクレイ国の王子妃だ。というか、次期王妃だ」
カーティスは、そこのところは律儀だった。彼は、そこまで傲慢でも自分本位でもなかった。
彼は、足を止めてわたしの方を振り返った。それから、わたしとしっかり視線を合わせた上で説明してくれた。かぎりなくちいさな声で。
もっとも、その説明はツッコミどころ満載どころか、わけがわからなさすぎたけれど。
「ちょちょちょちょっ、閣下。それってどういうことなのです? いまのでは、まったく説明になっていません。よけいにわけがわからなくなりました」
「ああ、すまない。じつは、おれは妻を迎えるにあたって王太子に決まってね。つまり、王位継承第一位になったわけだ」
「い、いえ、閣下。そこではなくてですね……」
「シヅ。だから、きみは王太子妃に、そう遠くない先には王妃というわけだ」
「閣下、だからそこじゃないって……」
そのとき、わたしの耳にふたつの「プププッ」とふきだした音が飛び込んできた。かぎりなくちいさな音だったけれど。
カーティスとわたしがあまりにも噛み合っていなさすぎて、大佐とカイルがふきだしたのだ。
「というわけで、国王と王妃が会いたがっている。もちろん、式は盛大にはしない。なにせ戦時中だからね。とりあえず、発表だけだ。シヅ、きみもその方がいいだろう?」
「いやいやいや、だからそこではなくて……。って、閣下。いい加減にしてください」
カーティスに揶揄われていることに気がついた。
正確には、カーティスはわたしの意図をわかっているのだ。わかっていてわざととんちんかんすぎる言動をしているのだ。
「すこしの間、外してくれないか? 愛する妻に時間を与えたい」
その証拠に、カーティスの美貌がわずかに真剣みを帯びた。そして、彼は近衛兵たちに命じた。
すぐにだれもいなくなった。
正確には、カーティスと大佐とカイルとわたしの四人以外はこの場からいなくなった。
大廊下で王族への居住区域へと続くおおきな扉の前で、わたしたちは突っ立って睨み合うことになった。




