この野郎どもは……
カーティスは、そんなわたしの動揺や混乱などどこ吹く風である。彼は、わたしの手を取らない左手で人々に手を振り、呑気に歓声に応えている。
その彼の様子が、ますますイラつかせた。
「ハアッ?」
危うく声が出そうになった。
「閣下、わたしの問いが聞こえませんでしたか? 人々の歓声は、どういうことなのです?」
小声すぎて歓声で聞えなかったのかもしれない。
彼の手をおもいっきり自分の方へと引き、注意を促すとともに先程よりかはおおきな声で尋ねた。
「ああ、ああ。わかっている。が、いまはみなの歓声に応えて欲しい。ただ手を振るだけでいい」
「はああああ? どうしてわたしが応えなければならないのです?」
うしろにぴったりくっつきついてきている、大佐とカイルへと視線を向けた。
ふたりに助けを求めるために、である。
が、その期待は見事なまでに裏切られた。
大佐もカイルもよそを向いている。というか、頑なにこちらを見ようとしない。
わたしの視線に気がついているにもかかわらず、気がついていないふりをしている。
(この野郎どもは……)
苛立ちと腹立ちは、絶賛上昇中である。
とはいえ、まさかこれだけの人々の前でカーティスをなじるわけにもいかず、ましてや彼の手を振り払って逃げだすわけにもいかない。
逃げだそうものなら、すぐうしろにいる大佐とカイルに文字通り捕獲されてしまう。
ここは、カーティスの思う通りにさせておくしかない。
というわけで、のっぺりした顔にぎこちない笑みをはりつけ、機械仕掛けの人形のごとく人々に手を振り、宮殿に入った。
本殿の大廊下の左右にも人々が立って歓声をあげている。
大理石の床上には真っ赤な絨毯が敷かれ、それがずっと奥まで続いている。
本殿に足を踏み入れたのは、最初のパーティーに来て以来これが二度目である。
王宮には来ているけれど、いつもカーティスが居住に使っている客殿に来ていたから。
本殿は、もちろん立派である。
その本殿の大廊下を、ズンズンと進んで行く。
大広間をすぎ、さらに奥へと。
そしてついに、最奥部までやってきた。
そこには、いかつい六名の近衛兵が番をしている。
ここから先が王族の居住区域であることは、生まれたての赤ん坊でもわかるだろう。




