表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/172

夜這い?

「チッ」


 無意識に、であろう。侵入者が舌打ちした。


 その音は、静寂が支配する客室内ではやけにおおきかった。


 実際のところは、ほんとうにわずかな音だったのだろうが。


 侵入者は、音を立てた後には寝台の下を確認したに違いない。


 この客室内は、クローゼットはない。もしも室内でだれかがかくれんぼをしようとすると、身を隠せそうなところは寝台の下しかない。


 いずれにせよ、一般的には寝台の下に隠れるだろう。あるいは、寝台の下に隠れていると考えるだろう。


 が、その寝台の下にもいないとすると……。


 というか、この侵入者の狙いは、あきらかに盗みや強奪ではない。


 わたし、である。


 このわたしの魅力にまいっただれかが、夜這いでもしにきたのかもしれない。あるいは、わたしのことを気にくわないだれかが、殺しにきたのかもしれない。


 可能性としては、残念ながら後者だろう。


 目的や理由はともかく、侵入者はだれか? このことについては、わたしもわかっている。だから、彼の目当てが物ではなく、わたし自身だということを確信できる。


「ったく、なんのつもりだ? 降りてこいよ」

「なんのつもりですって? そのままそっくりお返ししますよ、少佐?」


 聞いて呆れる。


 こんな夜中に、いたいけなレディが眠っている部屋に窓から侵入するなんて、いったいなんのつもりなの?


 全力で問いたい。


 呆れ返りながら、飛翔した。


 天蓋から、侵入者の頭上めがけて飛び降りた。


 すでに愛用のナイフを抜いている。


 これは、現役時代に特注した得物。細身の刃を持つレイピアに似ているけれど、より鋭く、それでいて破壊力抜群。こいつは、最高の相棒である。わたしを守り、敵を攻めてくれる至高の存在。


 もっとも、夫はよりいっそう最高の相棒だし、至高の存在であるけれど。


 そんなわたしの得物は、父方の縁者に鋼から打ってもらった特注品である。


 父方の祖先は、遠い東の大陸の国で鍛冶屋をしていたらしい。しかも名鍛冶屋である。大剣や戦闘斧など、なんでもござれだったとか。


 その国でしか産出されない鋼で打つ剣やナイフは、切れ味は鋭く、破壊力は半端なかったらしい。


 名鍛冶屋がゆえに、王族をはじめ多くの人々の為に鋼を打ち続けた。祖先は、なにも武器を作る為だけに鋼を打っていたわけではない。生活用の為、つまり料理用のナイフ、はてはペイパーナイフまで、そういった日々の生活に必要なものも打っていた。むしろ庶民の為に鋼を打っていた、といってもいいかもしれない。


 そんな祖先は、あるとき国内のいざこざに巻き込まれてしまった。国王の首を切り落とす為の剣を打ったということで、捕まりそうになったらしい。当然、捕まれば断頭台に立たされる。


 祖先は逃げた。


 逃げた先は、この大陸の東方にある王国だった。


 その時代、そのあたりは戦争が絶えなかった。戦争、というよりかは実力のある者が上を目指し、謀略や簒奪や反乱や暗殺が横行し、国そのものが混沌としていたらしい。


 驚くべきことに、祖先はそこで大成した。鍛冶屋は、どさくさに紛れて王族に近しい存在になったのだ。


 いまの時代にはとうてい考えられないことが、その時代にはあったのだから驚きである。


 その王国で何代にもわたって受け継がれたのは、鍛冶屋のスキルと人が羨む地位だった。


 時代は移り変わり、子孫の代になった。その頃、皮肉にもまた昔と同じような混沌とした時代を迎えた。


 結局、子孫は反乱軍や他国の軍によってすべてを奪われた。


 そして、子孫の一部分はその国を捨て、他国へ逃れた。


 またしても逃げなければならなかった。


 自分たちの祖先と同じように。


 その子孫たちの逃亡先が、このベイリアル王国なのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ