夢だったのかしら?
「夢? あれって夢よね?」
時間にすれば、そう長くはなかった。まるで封印を解かれたかのように、いろいろな光景が出てきたのである。
「ほんとうに夢だったの? 一般的には、寝ているときにみるものよね?」
言葉が口からこぼれ落ちていく。
「夢というには、ほんとうにリアルだったわよね。あまりにもリアルだったわ。
まるで自分が体験したり見たり聞いたりしたかのようだった。
そう。あれは、夢というよりか記憶みたいだった。
上半身を起こした。
「ダラダラしている場合ではない。どんな手を使ってでも、早急に謎の人物サミュエルに会わなければ」
立ち上がったときには、すでに策を練り始めていた。
カミラに朝食はどうするかときかれた。
食べるか食べないか、についてではない。
もちろん、食べるにきまっているから。
そうではなく、大佐とカイルといっしょに食べるかどうか、である。
もちろん、いっしょに食べると答えた。
大佐はどうでもいいけれど、カイルとはいっしょに食べたい。ふたりだけではない。どうせだから、わたしを監視、もとい護衛してくれている「ザ・エージェント」も紹介してもらいたい。
というわけで、いっしょに食べたいとお願いした。
「ザ・エージェント」は、五人。メインはその五人で、交代要員もいるらしい。
五人とも、めちゃくちゃ体格がいい。さすがである。戦闘術に長けているメンバーが選ばれただけのことはある。
自己紹介をしあったけれど、五名ともわたしが現役の頃「死神」と呼ばれていたことを知っていた。そして、「会えて光栄です」とか「ぜひともやり合ってみたかった」などと、殊勝なことを言った。
たとえそれがおべんちゃらや社交辞令であったとしても、同業者、しかもエージェントの中のエージェントの強面男性たちからそんなふうに言われ、うれしくないはずがない。
わたしは、単純である。
途端に機嫌がよくなった。それでついつい笑い話を披露してしまった。
大佐は、「調子に乗るな」的に不機嫌だった。しかし、カイルは五名といっしょに笑っていた。
そのカイルの心からの笑いも、ベンとまったく同じだった。
みんなで朝食を楽しんだ後には、苦行が待っていた。
カーティスに会わなければならない。
ランチをともにする、というのが表向きの用件である。
こんなときまで、表向きの用件が食いしん坊のわたしらしい内容になっている。ちょっとだけ複雑な気持ちになった。
それはともかく、正直なところいまはカーティスよりも謎の人物サミュエルに会いたい。どう考えてもサミュエルに会う方が有益である。
しかし、カーティスの誘いは断れない。その上、まさか謎の人物に会うから護衛してもらいたくないの、とは言えるわけはない。
というわけで、大佐とカイルと五名の護衛たちとともに、王宮へと出向いた。
まさかこのとき、王宮がとんでもない事態を迎えていることなど知る由もなかった。




