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寝姿は見られたくない

 本来、寝顔を他人に見せることはない。寝顔だけではない。寝姿をさらすようなことはあってはならない。あってはならないだけでなく、習性でもある。いくら疲れていようとケガや病で寝込む状況であろうと、けっして横になって眠らない。任務中や敵地にいるような場合は、座ったまま眠ることがあった。夫のベンにいたっては、瞼を開けたまま眠るというホラーチックな寝方ができるから驚きである。


 それはともかく、そんな習性もベンの前だけは別である。彼の前では、気を許せた。だから、眠ることだってできた。ウトウトどころか、イビキ歯ぎしり寝言もしょっちゅうだった。大爆睡だってしょっちゅうである。ベンにだけは、無防備な姿をさらすことができたのだ。


 そういうわけで、そのベンに見られてもかまわないはずなのだ。しかし、ひさしぶりすぎる。だから恥ずかしくなったのである。


 こんなわたしでも、羞恥心はある。


 恥ずかしい思いをしたことは別にし、彼にこのことを突きつけてもこう答えるだろう。


「勝手に部屋に入り、側にいてすまなかった。だが、きみを守るためだったのだ。きみの側にいた方が、よりいっそう確実だろから」


 というようなことを。


 カイルとして、わたしを守っていたにすぎない。


 彼は、そう主張する。


 だから、彼を問い詰めてもムダである。


「っていうか、どうしてわたしを見ていたの? もしもベンとして見ていたのなら、やはりわたしのことを……」


 自分でも「まだそんなことを言っているのか? しつこいぞ」と、呆れてしまう。


 さらには、自分が任務以外でこんなにしつこくて執念深くて頑固でバカだとは思わなかった。この年齢になってはじめて気がついた。


 まだあった。これほど一途だとも思わなかった。


 もっというと、これほどまでにベンを愛しているのだとは思わなかった。彼を心底愛し、彼に心底愛してもらいたいと願い、望んでいるとは思わなかった。


 もっともっというと、すくなくともわたしは願ったり望んでいるだけではない。実践しているのである。


 それこそ、ベンに身も心もすべてを捧げている。


 それほどまでに彼のことを愛している。


 彼の残り香を嗅いでいるうちに、ふたたび寝台の上に寝転んでいた。そして、瞼を閉じていた。


 彼の残り香がわたしの身と心を包み込み、愛撫するに任せる。


 身も心もとろけかけたとき、ふと思い出した。というよりか、唐突といっていいほどその光景が瞼の裏に現れたのである。


 それは、子どものベン。いや、子どものときのベンである。


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