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男の子と女の子

 鏡に映っているわたしは、ずいぶんと着飾っている。いかにも高価そうなドレスを身にまとっているのだ。周囲には、数名の侍女らしきレディがあれこれと忙しそうに室内を行き来している。


 なにより、鏡に映るわたしはまるで女の子だ。もちろん、女の子である。ちゃんとしたまともな女の子、という感じなのだ。長い黒髪はキレイに編まれ、花が飾られている。まだ幼いのに唇には紅まで塗っている。


 それはまるで、書物にでてくるお姫様のようだ。


 女の子のわたしは、鏡の前でクルクル回転してすべてが完璧かをチェックしている。その姿は、ほんとうにお姫様だ。


 周囲の大人たちは、そんなわたしをチヤホヤしている。


 その女の子は、自分のはずなのに自分ではない気がする。パッと見て自分だと思ったのに、違和感がある。


 その違和感は、どんどんおおきくなっていく。ちいさな自分を見ているうちに、「これがほんとうに自分なの?」、と不思議に思えてきた。


 その瞬間、急に暗くなった。


 燃え盛る炎。阿鼻叫喚が耳にうるさい。先程とは違い、女の子のまわりには血みどろの大人たちしかいない。大人たちはつぎつぎに倒れ、ついには動かなくなっていく。


 周囲には血と恐怖の臭いが充満し、ちいさなわたしにまとわりつく。


 しかし、わたしは泣いていない。泣かない。必死にガマンしている。強がっている。


 そのちいさなわたしも、間違いなくわたしだ。それなのに、自分ではない感じがする。違和感を抱いているのに、それでもなぜか自分だと確信している。


 迫りくる刃の数々。追手の騎士たちの刃が、女の子に迫る。わたしに迫る刃の数々を、わたしは第三者的に見つめている。


 そして、また闇に包まれた。


 また女の子。わたしだ。わたしだけど、わたしではないみたいな女の子は、やはり大人たちに囲まれている。


 その大人たちの中に、見知った顔があることに気がついた。


 正確には、見知った顔を若くした顔である。


 大人だけではない。子ども、具体的には男の子もいる。


 わたしより年長の男の子。燃えるような赤い髪の男の子。目鼻立ちが整っていて、すごくカッコいいというのが第一印象。なにより、ルビー色の瞳がきれいで魅入ってしまう。


『きみはこれまでの記憶を奪われ、違う記憶を与えられるんだ。きみが生き残るために必要らしい。きみが生き続けるためにそうしなければならないらしい』


 わたしより背の高い男の子は、わたしに目線を合わせてそう言った。


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