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信じるつもりはないから

 とにかく、これだけしつこく突きつけてきたら、だれだって信じるだろう。そして、諦めるだろう。納得するだろう。過酷な事実とこれからの人生にたいして悲嘆に暮れたのち、サッパリすっきりハッキリふっきれるだろう。


 が、それはあくまでもふつうは、である。


 わたしは、あたりまえすぎるけどふつうではない。しかも、しつこいし諦めが悪いし往生際も悪い。ついでに、頑固だし融通が利かなさすぎる。


 つまり、カイルが何度宣言しようが忠告しようが、わたしは信じない。というか、信じるつもりはない。


 というわけで、諦めるわけはない。納得するわけはない。ついでに悲嘆に暮れたのちにふっきれることもない。


 しかし、カイルはわたしがそうだということも読んでいる。それでもなお彼自身のことをベンだと思い続けることをわかっている。


 結局、彼とわたしはこのことにかんして堂々巡りするだけなのだ。


 というか、カイル、いや、ベンの方こそ諦めが悪すぎる。往生際も悪すぎるし、頑固すぎるし融通が利かなすぎる。


『ベン。さっさと『おれはベンだ。事情があってカイルでいなければならない』、と言いなさいよ』


 逆に彼にそう忠告してやりたい。それこそ、ぶん殴ってでも言わせたい。


 カイルを見ていると、フツフツと怒りが湧いてきた。


 そう思うと、よけいに腹が立ってきた。


「ああ、そうだな。わたしが不甲斐なさすぎるからかもな」


 不意に発せられた大佐の言葉は、わたしの怒りの炎を鎮めるどころか、よりいっそう燃え立たせた。


 なぜなら、大佐のその反応がわたしの予想していた反応とは真逆だったからである。


 大佐ならば、突っかかってくると予想していた。


「へー、大佐。それを認める辺り、あなたも丸くなったものですね。それとも、閣下に、いえ、カーティスに抱きこまれましたか? 彼自慢の『ザ・エージェント』に引き抜かれたのですか?」


 さらに怒りが増した。だから、ムダに煽ってみた。


「大佐、覚えていますよね? 昔、あなたの部屋で三人でムダな時間をすごしたことを。あなたとベンとわたし、の三人でです。たったいまのように。懐かしくありませんか? あのときのままですよ」


 長椅子の背もたれに背中を預け、足を組んだ。


 わたしは、背は低いけれどかといって足まで短いというわけではない。すくたくとも、そう信じている。


「大佐は、カイルのことをどう思っているのです? 以前、あなたとわたしとで話したときには記憶喪失説を推してましたよね? あのときとかわっていませんか? だったら、このシチュエーションは懐かしいですよね? どうですか? 彼のことをベンと呼んで、葡萄酒を勧めてみては?」


 さらに煽ってみた。


 煽りつつ、ふたりの様子をチラ見した。




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