大好物、おおすぎない?
『奥様は、大好物がおおすぎます。それはもはや大好物ではなく、ただの好物です』
サイモンは、そのように呆れている。
しかし、彼の作る料理やスイーツは、どれもこれもとにかく美味しい。だから、わたしにとってはどれもこれもが大好物ということになる。
この夜、サイモンが準備してくれたパンペルデュは、お客様、つまりカイルのためではない。
わたしのためなのだ。
夜食のチョイスが、パンペルデュとホットチョコレート。これらは、成人男性は夜食に好んで食べたり飲んだりしないだろう。もっとも、わたしの最推しであるニックのような男児なら、おおよろこびするだろうけれど。
そして、本体にはシナモンがたっぷりかかっていてるだけでなく、生クリームが大量に添えられている。そのバージョンと違うバージョンまである。本体にサイモン推しのハチミツがたっぷりかかっていて、ベリーとバナナが添えられている。
パンペルデュと生クリームとハチミツ。最強のトリオだ。
ホットチョコレートには、マシュマロが浮かんでいる。
サイモンのホットチョコレートはエレノアのと違って甘さをかなり控えている。マシュマロでいい感じになるのだ。
こんなパンベルデュとホットチョコレートの組み合わせが、美味しくないわけはない。
つい熱くなってしまった。というわけで、大佐とカイルと三人でいただいた。というか、彼らは二人分。わたしは三人分食べたような気がした。まあ、それは気のせいだろう。
ニューランズ伯爵家であれだけ飲み食いしたにもかかわらず、おかわりまでしてしまったのである。
(でもまぁ、あれはあれだしこれはこれ。スイーツや夜食は別腹と法で決まってるし、いいわよね)
ということにしておく。
誤解のないように告白すると、このマクレイ国にそんな法はない。ついでに告白すると、祖国ベイリアル王国にもない。
カイルは必要ないと言ったけれど、護衛をしてくれている「ザ・エージェント」のメンバーたちにも、夜間は居間で交代で休んでもらうことにした。もちろん、サイモンに頼んで食事も提供することにした。
というか、うちの使用人たちにとっては、彼らは同僚である。
おたがいに気を遣う必要もないだろう。ということは、おたがいに確執とか対立とかもない。協力し合えるというわけ。
というわけで、気を遣うのは護衛の対象本人であるわたしだけなのだ。




