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カイルがわが家へ

 この夜、カイルがエレノアに言ったようにわたしが彼らの屋敷に泊まることはなかった。


 オールドリッチ王国の暗殺者たち、つまり暗殺部隊に襲撃されれば、またしてもエレノアとニックに迷惑をかけてしまう。なにより、危険なめにあわせてしまう。


 というわけで、ニューランズ伯爵家の居間でアップルパイとお茶をご馳走になってから、そうそうにひきあげた。


 が、ただ帰宅したわけではない。


 なんと、カイルがついてきたのだ。


 彼は、わたしを護衛する「ザ・エージェント」たちの指揮を執るらしい。だから、しばらくの間彼はわが家に泊りこむとか。


 わたしが王宮にとどまらず、屋敷に戻ってそこでこれまでと同じように生活するのには、カーティスがつきつけてきたいくつかの条件をのまなければならなかった。


「ザ・エージェント」のメンバーの中でも、戦闘専門の工作員数名が護衛すること。そのメンバーを指揮するため、カイルがわが家に泊まり込むこと。


 そのふたつが、条件の中に入っていた。


 カーティスとの約束。カイルに「来るな」とは言えない。


 カーティスの命を受けた「ザ・エージェント」たちは、ニューランズ伯爵家を辞すときにはすでに揃っていた。揃って待っていた。しかも、これみよがしにではない。


 それぞれの持ち場に散って、である。しかも気配を感じさせず。


 これには、「さすが」と感心してしまった。


 というわけで、カイルと「ザ・エージェント」を引き連れて帰宅したわけである。


 しばらくは、いろいろな意味でにぎやかになりそうだ。



 わが家の使用人たちは、カイルがしばらく滞在することについて、わたしたちが帰宅するすでに知らされていた。


 帰宅すると、すでに客間の準備が整っていた。


 デニスから借りているこの古風すぎるちいさな屋敷には、狭いけれど客間はある。ふだんからカミラとナンシーが掃除や手入れをしてくれているので、きれいなものである。


 すごしやすいに違いない。


 料理人のサイモンは、パンペルデュとホットチョコレートを準備して待ってくれていた。


 どちらもわたしの大好物。


「血みどろの森」にいた頃、パンがカチカチになってカビてくると、カビのところだけとってパン粥にしていた。残念ながら、タマゴやミルクは長期間ストックできない。だから、水で煮るしかなかった。たまーに近くの村に買い出しに行くと、どちらも購入するのでそのときだけはパンペルデュを作って食べたものである。


 それはもう、どれだけ美味しかったことか。食べた瞬間のしあわせさは、なかなか他にかえられない。


 もちろん、夫ベンとのひとときは別だけど。


 それはともかく、「血みどろの森」にいた頃、生クリームやハチミツがあれば、さらにしあわせ度は上がっただろう。しかし、そんなものは贅沢品である。本体だけで満足していた。


 サイモンは、わたしの大好物を完璧に把握している。


 というか、彼は呆れているのだ。



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