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記憶喪失でなければ双子よ、双子

「とはいえ、おれがどれだけきみを諭そうとアドバイスしようと、きみはおれの言うことを聞かないだろう。いや、聞くつもりはないだろう。聞き入れはしないはずだ。おれは、それらもわかっている」

「双子よ」


 おもわず、口に出していた。


 それは、書物にでてくる筋書きで記憶喪失のつぎに多いパターン。作家が使いたがるシチュエーションというわけ。


「なんだって?」

「じつは、ベンは双子だった。わたし、彼の過去はほとんどといっていいほど知らない。当然、彼もわたしの過去を知らない。おたがいにそれは必要ないから。だから、じつは彼は双子だった。カイル。あなたは、ベンの双子の兄か弟なのよ。いまの説はどうかしら? ありえるし、面白いでしょう?」


 まったくありえない話ではない。しかし、いまの時点ではその説を信じて告げたわけではない。ただ思いついただけである。


「まいったな。シヅ、きみは面白いよ。閣下が気に入るわけだ」


 カイルは、文字通り腹を抱えて笑いはじめた。


 それもまた、わたしがベンに冗談を言ったときに笑ったのと同じ笑い方だった。


「シヅ、わかったよ。好きなようにするといい。好きなだけベンを想い続ければいい。彼の幻影を追い求め続ければいい」


 彼は、姿勢を正した。その美貌に笑みはなくなっている。


「閣下は、ベンのことを知らない。彼の詳細のことはね。そして、きみがいまここにいるのは、任務のためではなくベンを追ってのことだということも」

「どうして……」


 言いかけて気配に気がついた。


 階段をのぼってくる音から、エレノアが心配して様子を見に来たのだ。


「閣下は、『ベイリアル王国の諜報員を始末した』という程度にしか知らない。おれが報告しなかったからだ。ベンの詳細について、閣下に報告しなかったのだ」


 彼は、そうささやくとこちらに背を向けた。


「あなた? シヅ? ニックは? あまりにも遅いから様子を見に来たの」

「愛する妻よ。きみとおれの息子は、すでに夢の中だ。シヅが疲れているようだから、『なんなら泊って行けばいい』と説得していたところさ」


 階段上に現れたのは、やはりエレノアだった。カイルは、そのエレノアに足早に近づき、熱い抱擁をした。


 まるでわたしに見せつけるかのように。


 まるで自分はベンではなく、妻を心から愛する夫カイルだと主張するように。


 そのラブラブなふたりを見ながら、疑問を抱いた。


(カイルは、なぜいまこのタイミングで自分はベンじゃないと主張したのかしら?)


 そのようにである。


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