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食べることは最高!

 結局、同じ宿屋でみんな離れ離れの部屋になった。


 とはいえ、食事はいっしょにとる。


 わたしたちの宿泊するおおきな宿屋は、他の宿屋と同じように一階は食堂兼バーになっている。そして、二階と三階が客室である。


 この街の他の宿屋は、ほとんどが二階建てである。しかし、わたしたちの宿泊するおおきな宿屋は、三階まであって一夜に宿泊出来る人数はかなり多いようだ。


 当然、夕食は大佐と同じテーブルだ。少佐たちは、隣のテーブルである。


 その宿屋の食堂の看板メニューのひとつは、肉をじっくり煮込んだシチューだった。それから、ミートパイ。シチューは、わたしの得意料理のひとつだ。というのも、「血みどろの森」でのサバイバル生活では、シチューが中心だった。森に人間が立ち入らない為、小動物から大型の動物まで狩り放題なのだ。獣だけではない。大きな池には魚がいて、獲り放題。イモやニンジンは、自分で育てた。肉に魚に根菜。これだけ揃えば、シチューのレパートリーも増える。そればかり作ってしまう。ということは、料理の腕も上がるというわけ。


 とはいえ、プロの作るシチューの方が、断然魅力的だ。肉をじっくり煮込んだシチューだなんて、肉好きのわたしの食欲をおおいに刺激してくれる。


 というわけで、シチューとパイの両方を頼んだ。


 貴族婦人ともなると、サラダとか野菜の煮込みとかヘルシーな料理を少量食べるはず。あるいは、過度なダイエット中で野菜のスープを少々とか。


 が、いまは気にしないことにした。


 本来なら、わたしはマクファーレン公爵家の四男の妻。とはいえ、彼の妻になる前は軍の広報部の大佐を務める彼の部下だったという設定である。


 広報部で広報活動をしていたとはいえ、軍人にかわりはない。


 レディっぽいところがなくても許されるはず。


 というわけで、運ばれてきたシチューとミートパイと夕方焼き上げたという白パンとハード系のパンを、一心不乱にいただいた。


 一日中馬車に揺られていると、異常なまでにお腹がすく。そして、いつもとは違う環境にいると、異常なまでに食欲が増す。


 とにかく、そのふたつの理由で死ぬほど空腹だったのだ。


 大佐は、テーブルをはさんだ向かいの席で眉をひそめている。隣のテーブルにいる少佐たちは、呆れ返って眺めている。それらに気がつかないふりをし、とにかく食欲を満たした。


 いかなるときでも食が基本。食べてさえいたら生きていける。なにごとにも打ち勝てる。どんなことにもへこたれない。気力を維持できる。


 なにより、前を向ける。前に進める。


 これらは、わたしの持論。


 夫の持論でもある。


 夫は、わたしに気遣って彼自身のモットーにしてくれた。


 わたしたちのモットーはともかく、美味しい料理を食べ尽くした後には、デザートとしてベリーパイを三人分いただいた。


「明日の朝はアップルパイを焼くから、楽しみにしておいで」


 うれしいことに、おかみさんがそう予告してくれた。


「ぜったいに食べますね」


 おかみさんに約束し、夕食を終えた。


 料理だけではなく、ベリーパイとお茶も最高に美味しかった。


 心と体は、充分満たされた。大満足である。


(このまま部屋に戻り、寝台の上でダラダラすごそう)


 こんなこと、しあわせ以外のなにものでもない。


 この三年間の森での生活は、大変な面もあったけれど悠々自適である意味怠惰なところもあった。


 そんな怠惰な生活など、現役時代には無縁だったことはいうまでもない。


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