本気で心配してくれているの?
「シヅ、無事でよかった。ほんとうに無事でよかったわ」
「どれだけ心配したことか。ニックも心配しているのよ」
エレノアの美声は、いまや泣き声になっている。そして、きれいな蒼色の瞳からは、涙が流れている。クラリスもまた、鼻声だしきれいな瞳が潤んでいる。
彼女たちが本気で心配してくれている。
ついつい勘違いしてしまいそうになる。
「シヅ、ほんとうによかったよ。みんなでどれだけ心配したことか」
クラリスとエレノアから解放されたと同時に、つぎはデニスにハグされた。
「シヅ、心配でどうにかなりそうだったよ。だが、無事でよかった」
デニスのつぎは、カーティスである。
彼のハグは、ハグというにはきつくてしつこかった。
わたしが彼との約束を果たさなかったから、その腹いせに違いない。
カーティスとの約束は、エレノアとニックの拉致事件ですっかり忘れて、というよりか気を失っていたから果たせなかった。
彼の行きつけの店に食事に行こう、という約束のことである。
とはいえ、今回行けなかったしても店は逃げやしない。もっとも、なにかの事情で閉店することはあるかもしれないけれど。
いずれにせよ、怒るほどのことではないはず。
「あの、みなさん。ほんとうにご心配をおかけしました」
カーティスのハグから解放されたタイミングで謝罪しておいた。
ここにいる人たちみんなの真意はともかく、一応はわたしを心配しているていを装っている。その装いにたいし、一応は謝罪をしなければならない。
「買い物の後、ひさしぶりに外出した解放感から街ブラをしたくなったのです。行ったことのあるところ、行ったことのないところ、いろいろまわっているうちに気がついたらヤバい地域に足を踏み入れていました。しかもそうとは気がつかず、そこでウロウロしていて迷ってしまいました。そうすると、ヤバい地域のヤバい人たちに違いありません。そうこうしているうちに、正体不明の何者かに追いかけまわされました。もっとも、幸運にもヤバい地域から抜けだすことはできたのですが。そのとき、エレンと彼女の夫ライオネルに偶然出会ったのです。親切な彼女たちが屋敷に誘ってくれて、そこでしばらく休憩させてもらったのです」
すべて事実。ほんとうにあったことである。虚言でも誇張でもない。
ただし、言わなかったことがある。告げなければならないかんじんなことは省いている。
ただ、それだけのこと。
だから、罪悪感やうしろめたさはあまりない。
そのつもりである。
そんなわたしを、みんな立ったままジッと見ている。
王宮の客殿内にある一室で、この光景は異質に違いない。




