みんなが心配してくれていた
メイド役のカミラとナンシー。そして、執事役のフィリップと料理人役のサイモン。四人ともわたしのことをめちゃくちゃ心配していた。
それはそうだろう。見張るべきわたしの行方が不明になった上になにかあれば、彼らの責任が問われることになるのだから。
というわけで、めちゃくちゃ怒られもした。
彼女たちだけではない。
なんと、大佐が帰宅していたのである。
少佐がこなくて正解だった。
どうやら彼は、そんなことには勘が働くらしい。
少佐のことはともかく、大佐にもめちゃくちゃ叱られた。もちろん、それで終わるわけはない。嫌味や皮肉をたっぷりじっくりガッツリ言われた。
いつもなら大佐に反論したり言い訳をしたり反抗したりすねたりいじけたり、とにかくありとあらゆるリアクションをとったはずだ。しかし、このときばかりはなにも言わなかった。
いや、言えなかった。
というのも、どこまで話してどこから話さないのか。あるいは、どれを言ってどれを言わないのか。まだなにも整理できていないからである。
謎の人物サミュエルと話し合った通り、ヤバい地域に迷い込んでトラブルに巻き込まれたあとに偶然エレンとライオネル夫妻に会い、彼らの屋敷ですごしていた、とは伝えた。
とりあえず、このほんとうの話でこのときはやりすごした。
残りのもろもろのことは、とにかく頭と心を落ち着け、整理をしてからである。
「しょうのないやつだな、おまえは」
大佐はくどい。くどすぎる。いつまででもウダウダ言っている。
「さあ、行くぞ」
彼は、宣言とともにわたしの右手首をつかんだ。その強さに、おもわず顔をしかめてしまった。
「エレノアが心配している」
唐突にエレノアの名がでてきた。
ナンシーが手短かつ要領よく説明してくれた。
エレノアとニックが、わたしが屋敷をでてすぐに見舞いに来てくれたらしい。わたしがシャツとズボンを買いに街に行ったことを聞いた彼女は、すぐに馬車で街に向かったらしい。彼女は、わたしの好きなブランドを覚えていたのである。が、すでに店にはいなかった。周囲を探すも見当たらない。いったんわが家へ戻ってきてわたしが帰るのを待ってみたが、わたしが帰ってこない。
「エレノア様はたいそう心配され、王宮にいる旦那様方に使いを出されたのです」
ナンシーは、そうしめくくった。




