はぁぁぁ? 生きていたの?
馬車が停車したのは、国都の端の地域だった。そこは上流階級、つまり貴族たちが自分のお気に入りの人物を住まわせるためのセカンドハウスが多くある隠れ家的な地域である。というわけで、治安はいい。このあたりは、驚くような屋敷が建っていたり広大な敷地を擁しているというわけではないけれど、そこそこの屋敷が点在している。
馬車は、そういったそこそこの屋敷の前で停まった。
ライオネルにエスコートしてもらい、馬車を降りてその屋敷の玄関へと向った。
馬車は、そのまま家の前で待つようだ。
夕方までにはまだ時間がある。おやつタイムといったところだろうか。
だれに会うのか? どんなことが起こるのか?
不思議なことに、不安や緊張はない。
それどころか、ワクワクどきどきが止まらない。
怖れや不安はないものの、罪悪感はある。
みんなに心配をかけている。それから、このあとみんなに迷惑をかけることになるかもしれない。というか、迷惑をかけることになるだろう。
そういう罪悪感である。
もちろん、顔はポーカーフェイスを保っている。
まるで家の中から見ているかのように、玄関扉の前に立ったタイミングで扉が開いた。そして、暗がりからだれかが出てきた。
「はぁぁぁぁ? 嘘でしょう?」
あってはならないことだけど、つい声にだしていた。表情をあらわにしていた。
「驚いたか? いや、驚いただろう? また会えてうれしいだろうが、ええっ?」
そいつは、腰に手をあてムダにエラそうに息巻いた。
最後に会ったときとまったく同じ姿で。着用していた黒色のシャツとズボンは、土埃や格闘で汚れたり破けたりしているが、そうおおきくかわってはいない。そして、本人も顔や剥きだしの腕に痣や擦り傷はあるものの、欠けているパーツはなさそうである。
「ふーん。生きてたんですね、少佐?」
癪だから冷静を装った。ついでにいつも以上に冷たい態度をとった。
「さすがのおまえもこのからくりには気がつかなかっただろう? さすがはおれだな」
「はい? からくりかなにかは知りませんが、ほかのだれかが立てた作戦でしょう? あなたは、ただ言いなりになっただけじゃないですか」
なにもやっかんでいるわけではない。そうとしか考えようがない。
なぜなら、少佐はいまから会う人物の犬に成り下がっていて、あるいは金につられ、こき使われているにすぎないのだ。
いまのは、推測や予想ではない。確実なことである。




