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だれかと会うことに

「シヅ、すこしだけ遠まわりさせてください。じつは、あなたのことを上得意様に話しをしたのです」


 ライオネルは、やさしい笑みのまま続けた。


 そのふくよかな顔と小太りの体からは、いまはもうエレンの尻に敷かれている「気弱な夫」感はまったくない。


 強欲でしたたかで要領がよくてひと癖やふた癖はありそうな、そんなにおいがする。


 その作り顔と話し方でわかった。


 彼が扱っている商品がどういうものなのを。


「その上得意様がぜひあなたに会ってみたいと。もちろん、あなたにとっても損になる会談ではありません」


 馬車のスピードがあがっている。ライオネルを殴り、馬車から飛び降りようと思えばできる。わたしなら、だけど。


 だけど、興味がわいてきたこともたしか。


 まず、今日のこのもろもろの出来事は、あくまでも偶然だったのか?


 ということから興味をひく。


 もっとも、少佐の登場はまったく想像つかない。いずれにせよ、少佐のことはどうでもいいけれど。


 それはともかく、いまこの馬車から逃げるか逃げないか、である。


 興味がわいている一方で、やめた方がいいという気もする。


 これは、あくまでも勘である。レディの勘ではない。野生の勘である。


 知らない方がいいことを知ってしまう。行かなかった方がよかった、と後悔することになる。


 おそらく、勘はあたる。野生の勘は、興味をうわまわる。くだらない興味で首を突っ込み、とんでもなくヤバいことになったことは一度や二度ではない。そのつど、死んだはずの夫ベンが助けてくれた。救ってくれた。フォローしてくれた。


 しかし、いまそのベンはいない。わたしの側にいて、そんなドジでバカで愚かなわたしを物理的精神的に救ってはくれない。


 ベンというわたしにとってのヒーローがいない以上、このことに首を突っ込むのは書物にでてくるおバカなヒロインと同じことである。


 おバカなヒロインほど、その愚かさで読者を呆れ返らせることはない。まさしく、それである。


「お断りすることはできないのですよね?」

「断る? あなたが?」


 ライオネルは、鼻を鳴らした。


 彼もまた、わたしのほんとうの正体を知っているらしい。わたしの性格も含め、よくわかっているらしい。


 馬車は、さらに速度をあげた。


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