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いっそ少佐を利用しよう

「おれは、病にかかっている。心の病だ。そのために休職願いを出した。その上で、療養のためにここにきた。だからおれにやさしくしろよ、ちんちくりん」

「はぁぁぁぁぁ? 心の病? 笑っちゃう」


 たしかに少佐は病んでいる。心、というよりかは精神を。


 しかしそれは、メンタル面ではない。少佐は、あきらかにサイコ的に病んでいる?


 彼は、正真正銘のサイコパスなのだ。


 そんな男に諜報員をやらせるのか?


 それは、軍の人事やおえらいさんたちの問題であってわたしの問題ではない。

 

「それにしても、よくもまぁ休職願いを受理してくれましたね」


 と少佐に尋ねてから、尋ねた自分を笑ってしまった。


 少佐は、休職願いを出すだけ出してベイリアルを去ったのだ。受理されようがされまいが関係ない。


「おれがここまでして来てやったんだぞ。おまえのためにな」

「は? わたしのため?」

「そうさ。助けに来てやったんだ。ありがたく思え。そしておれを敬い尽くし、それから愛せ」

「バカバカしい。あなたの助けなど必要ありません」

「おれに助けてもらわないと、おまえは破滅するぞ」

「ハハッ! すでに破滅していますよ。夫が、ベンが死んだと聞かされた瞬間に」

「まだベンのことを言っているのか? しつこい奴だな、おまえは。だったら、そのベンも含めておまえを利用するだけ利用して殺そうとしているとしたら?」

「……」


 なにも答えられなかった。


 少佐の言葉の意味がわからなかったからである。


 気がつけば、少佐は立ち上がってわたしを見おろしていた。


 わたしの手から相棒が滑り落ちたらしい。彼がそれを握ってヒラヒラさせていた。そして、意外にもすんなり相棒の握り手を差し出し返してくれた。


「どういうことですか?」


 少佐の野性的な美貌には、いまや勝ち誇ったニヤニヤ笑いが浮かんでいる。


 わたしが彼の話しにのってくることがわかっているからである。


 彼の心を読むことはできそうにない。技術的には、彼のガードはどうにかできるかもしれない。しかし、いまのわたしにどうにかする余裕はない。


 だとすれば、彼の話に食いつき、彼自身の口からきくしかない。彼に話させるしかない。


 彼は、そのことをわかっている。わたしが彼にそうさせることを。


 彼は、自分が優位に立っていると自覚している。たしかにそうである。


 しかし、正直癪である。口惜しすぎる。


 だから、わたしが彼を利用すると自分自身を納得させることにした。


 そうでもしないとやっていられない。

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