ひきこもり明けに街へ買い物へ
大佐には、街へ買い物に行くことを報告しなかった。彼は、その日も朝はやくから王宮に行ってしまっていた。買い物に行くことを思いついたのが遅かったということもある。それだけでなく、わざわざ報告するほどのことでもない。いちいち報告するのも癪である。
というわけで、わが家の使用人たちにはちゃんと告げ、徒歩で街へと繰り出した。
カミラとナンシーも来たがった。街でシャツとズボンを購入した後、三人でカフェによってレディトークをしてもよかった。
が、ひとりになりたかった。だれにも監視されることなく、ひとりになりたかった。だから、ふたりに「大丈夫だから」と告げ、屋敷をでた。
しかし、屋敷をでて上流階級の人たちが住む安全かつ閑静な地域を歩いているとき、それに気がついた。
だれかに見張られている、ということを。
イラッとした。しかし、できるだけ気にしないことにした。
街のほとんどは、いまや勝手知ったる状態になっている。
慈善活動はもちろんのこと、職業病の一種である「すべてを把握しておきたい」からと、歩きまわったからである。
どこにいようと、地理や地形は把握しておかなければならない。それは、わたしたちにとっては重要な項目のひとつである。
夫ベンのお気に入りのブランドは、このマクレイ国の国都にも取扱店があった。そこで今まで着用していたのと似たシャツとズボン、というよりかパンツを購入した。それから、店を出て街をブラブラしている。が、監視の目はつかず離れずである。
(ほんと、ご苦労なことね)
呆れ半分ではあるものの、違和感が拭えないでいる。
というのも、その気配がおかしいのである。
おかしい、という表現はおかしいかもしれない。おかしいというよりかは、それは最近のものではないけれど経験したことのある気配なのだ。敵意や害意は感じられないが、どこかねっとりとしたイヤなものが感じられる気配である。
気にしないでおこうと思ったけれど、だんだん気になってきた。
うなじのざわざわ感はない。
心身の回復具合もたしかめたい。
気配の正体を探ってみることにした。
街をあてどもなく、ムダに歩いてみることにした。
イライラ、というよりかは焦り始めた。
というのも、わたしを尾行する何者かがなかなか現れないからである。
あらゆる手を試してみた。尾行者の姿を確認するために。あるいは、姿をさらさせるために。
が、なかなか現れない。というよりか、現さない。
速度を緩めたり速めたり、人通りのないところを通ったり路地に迷い込んでみたり、逆に人ごみの中に入ってみたり、人目の多い場所で休んでみたり。
とにかく、いろいろ試してみたけれどことごとく不発に終わった。
わかったことは、相手は複数ではなくひとりであること。それから、最初から感じている通り害意や殺意はなこと。そして、プロであること。つまり、尾行に長けているということだ。




