表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/172

ああ、生きているのね

「そうだわ。ベンが、夫が助けてくれたのよ。ベンが、彼がわたしのもとに帰ってきてくれたのよ」


 勢いよく起き上っていた。


 眠りすぎたときのような倦怠感はあるものの、痛みや苦しみはない。


「せっかくベンに会えたのに、彼が戻ってきたのに、今度はわたしが死んで彼をひとりにしてしまった」


 なぜか両手を見つめた。書物の中で、ヒロインがよくやるように。いつもそういう場面を読むと、どうしてそんな無意味なことをするのだろうと違和感を抱いたものである。


 いまわたしは、まさしくそれと同じことをしている。


 結局、ヒロインは自分自身の気持ちを盛り上げるためにムダに両手を見つめるのだ。


 いまのわたしと同じように。


 そんな書物の中のヒロインに「あるある」はどうでもいい。


 見つめた自分の両手は、ベン同様分厚くてタコだらけ。汚くて醜い。


「ベン……」


 つぶやいていた。いいや。心からの呼びかけといってもいい。


「感傷に浸っているところ悪いが、発言していいか?」


 そのとき、そんなわたしの盛り上がりに水を差すかのように、大佐のムカつくほど冷静な声が耳に飛び込んできた。


 彼の声には、イライラがハッキリくっきりスッキリわかった。


 一応、彼を見上げた。


「目が覚めるなりうるさくてかなわん」


 彼は、わたしを睨み下ろした。


 とても横柄でエラそうだと思った。なに様だとも思った。


 大佐様、ってところなんでしょうけれど、ちっともたいしたことはない。


「まず、おまえは死んでいない。ここは、おまえの自室だ。それから、エレノアとニックは無事だ。おまえは、あの事件から三日三晩眠り続けた」


 大佐は、おおきな溜息をついた。


「あいかわらず、おまえの治癒力は野性の獣並みだな。あれだけの傷や打撲を負っていながら、三日三晩眠ったら『あーら不思議』。ほぼ完治するとはな。医師も薬師もビックリだ」

「あ……」


 忘れていた。


 わたし自身の治癒能力のことを。


 とはいえ、書物にでてくる聖女の力や治癒魔法のように、他人の傷や病を癒せるわけではない。というか、それは試したことはない。


 わたしのは、自分自身の治癒力である。


 病やケガは、どれだけひどくても寝てれいばすぐに治ってしまう。多少は薬草を煎じて飲んだり貼ったり塗ったりはすることはある。しかし、基本的には一夜眠れば治ってしまう。


 不可思議な体質だけど、この世界で生きる上でおおいに助かっている。


 もっとも、それも死んでからではどうしようもないだろう。


 死からの再生。それも試したことはない。生き返りや復活は、書物の中だけの話に違いないから試したいとは思わない。


「忘れていました。では、わたしは生きているのですね?」


 まるで他人事のようだったけれど、いまはっきりと自覚した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ