十二歳のクーデター
エリーゼ様が十七歳を迎えられた、ある冬の日の夜。就寝時間を知らせにエリーゼ様の部屋に入ると、エリーゼ様はベッドの上に座って、枕を抱いていらっしゃった。
「ねえ、ハンナ」
「なんでしょう」
「今日は特別に寂しい気分だわ。一緒のベッドで寝てくれない?」
エリーゼ様らしくない、しおらしい顔でお願いされると、私は断れない。例え十七歳になったとしても。
「かしこまりました。明日の支度が済めば、また参ります」
「誰にも言わないでよ? 内緒よ?」
「承知しています」
五年前の二月二十六日。その前年の秋からヴァレンシュタイン家に仕え始めた私は、多すぎる仕事が嫌になってエリーゼ様の部屋に閉じこもった。確か、私は法外な報酬や休暇を労働環境改善と称して要求していたと思う。わがままを糾弾されて解雇されればそれこそ自由の身だと考えていた。両親の立場など、少しも考えていなかった。
閉じこもりの巻き添えにされたエリーゼ様は、私の話し相手になってくださった。エリーゼ様は同い年の私よりもずっと大人で、私の味方も大人たちの味方もされなかった。気が済むまでやりなさい、と私と共に部屋で過ごされた。エリーゼ様が隣で聞いているとなれば、大人たちも私の話を黙殺することはできなかった。私は完全週休二日制導入の約束を勝ち取った。今になって思えば、エリーゼ様は私が大人たちと交渉できるように残ってくださったのかもしれない。
「ハンナ、まだ起きてる?」
「なんでしょう」
「不満に思っていることとか、ない?」
「はい、ありません。……いえ、来年からはもう少し大きなベッドにしてほしいですね」
「ふふっ。相談してみるわ」
エリーゼ様は今年も、ヴァレンシュタイン家の治安維持に貢献されている。
クーデターじゃなくてストライキだって? 知らん。