新たな町
花冠が死んでからの千年。
それは修羅にとって地獄のような日々だった。
いつかまた会えると信じて、強くなろうと修練をしていたのに……。
魔王を倒したその日に死んだなんて信じられなかった。
その知らせを聞いた日から修羅の世界は色をなくしたように何を見ても心は動かず、ただ眺めるだけだった。
誰とも関わらず魔族を根絶やしにするため戦い続けた。
五百年もそれを繰り返した。
だが、ふとしたとき自分は一体何をしているのだろうと我に返った。
鬼の王と呼ばれるほど強くなったが、大切な人を守ることもできなかった己の無力さが滑稽で笑えた。
魔族を倒したところで花冠は生き返らない。
何がしたいのかわからず何度死にたいと願ったことか。
それでも花冠に助けられた命を無駄にすることだけはできず、千年もの間後悔の日々を繰り返すだけだった。
それなのに、紫苑と再開し一緒に花冠を知る旅に出ようと言われる。
ふざけるな!今更知ったところでどうなる!
と思うのに同時に花冠のことを知れば何か変わるかもしれない、と期待してしまう。
「……いいだろう。共に旅をしてやる」
気づけば口が勝手に動いていた。
だが、どこかそれで良かったのだと思う自分がいた。
「修羅さんならそう言ってくれると信じてたよ。これから俺達のこと守ってね」
「……」
そういえばこういう奴だった。
上手いこと騙された気がするが、何故か少しも腹が立たない。
だけど紫苑の顔がムカついたので、町で大量にご飯を食べ奢らせた。
カルーナは修羅一人に使った金額に腰を抜かしそうになったが、ギャンブルで得たお金が大量にあるので紫苑にとっては大した痛手ではなかった。
※※※
「じゃあ、兄ちゃん。後は頼んだぞ」
男はそう言ってカルーナの肩を叩く。
「……」
想像以上のゴミ倉庫に絶句する。
これを一人でやらないといけない。
こんなことになったのは全て紫苑のせいだ!
ハハッ、と引きつった顔で笑うことしかできない。
数時間前。
「それでこれからどこに向かうつもりだ」
修羅は本来の姿から人間用の姿で共に旅をする。
腰まである長い髪は短くなり、体格も本来より小さくした。
爪の長さもちゃんと短くしている。
「蘇芳国」
紫苑が答える。
「ここからだと遠いぞ」
「知ってるよ。でも、蘇芳を避けてこの旅はできないでしょ。それに蘇芳に向かう途中色んな町に寄らないといけない。そこで花冠の話しを聞くことができるかもしれないでしょ」
「……」
修羅は何も言わなかったが、蘇芳を避けて通れないことくらいわかっている。
数百年ぶりに故郷に帰るのはどこか抵抗がある。
花冠と出会った国でもあるが、花冠を見捨てた国でもある。
今は違うとわかっているが、当時のことを思い出すとはらわたが煮えくり返る。
何もできなかった自分自身にさえ怒りを覚えてしまう。
「まぁ、今日はあそこの町で休もう」
魔物退治を依頼されたためここ数週間は山を歩き続け野宿だった。
久しぶりに風呂に入ってベットで寝られる。
「甘いもの食べたいのね」
町で休む、と紫苑が言った瞬間クオンは紫苑に抱きつき可愛くおねだりをする。
「いいよ。好きなだけ食べな。魔物退治頑張ったご褒美だ」
「わーい、ありがとう。紫苑兄ちゃん」
紫苑の首に腕を回し、喜びを表現するかのように回り続ける。
「クオン、そのくらいにしてあげて。紫苑さんが死にそうだよ」
「カルにもやってあげようか」
結構楽しかったのか、まだやりたりずカルーナにもやらせてくれと言う。
「遠慮する」
手でも嫌だと示す。
「そう、残念なのね」
紫苑から離れ地面に降りる。
「……クオン、それなら修羅さんとやればいいよ」
紫苑は息を整えるとそう言う。
修羅は自分を巻き込むなと紫苑を睨みつけるがもう遅い。
クオンが目の前で目を輝かせながら見てくる。
絶対にやらん!
そう意気込んだが結局「……少しだけだぞ」と折れる。
「相変わらず優しいね」
紫苑の言葉を無視してクオンのやりたいようにさせる。
「……そうなんですね」
カルーナは確かに優しいと思うが、顔が怖すぎて人間の子供は絶対に近づかないだろうと思った。
「これが町で一番いい宿なのか?」
今まで紫苑達が泊まっていた高級ホテルに比べればボロ宿。
だが、田舎町では目の前にあるボロ宿が一番いい宿なのは事実。
「そうみたいですね。名前もルナーですし、ここで合ってるはずですよ」
さっき会ったおじさんに「一番いい宿はどこにあるか」と聞いたら「ここを真っ直ぐ行った右側にルナーという宿がある。そこが一番いい」と教えて貰ったので間違いはない。
紫苑は想像していた宿とは違い絶句する。
「紫苑さん早く入りましょう」
紫苑が一人落ち込んでいる間に三人は宿に入り受付をしませた。
中々入ってこない紫苑を不審に思ったカルーナがどうしたのかと迎えにきた。
「うん、そうだね……」
ふかふかベットとギャンブルの夢の癒しが消え去り落ち込むも、仕方のないことだと受け止め重い足取りで建物の中に入っていく。
「じゃあ、僕話しを聞きに行ってきますけど紫苑さん本当に行きませんか?」
荷物を置いてすぐに花冠のことを知っている人はいないか探しに行く。
いつもは紫苑も来るのに今日は行かないと言う。
「うん、そんな元気ない……」
「そうですか。じゃあ行ってきますね」
よっぽどギャンブルができなかいことがショックなのだろう。
女将さんにこの町にギャンブルできるところはあるかと聞いたら「ない」と言われすごい落ち込みようだったの思い出す。
紫苑は重度のギャンブル依存症だ。
紫苑のお陰で快適な旅ができているし、他人の趣味に文句を言うつもりはないが、そこまで落ち込むかとベットの上から少しも動こうとしない紫苑に呆れてしまう。




