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第48話 魔女

 

 執務室に通されたルーク達は、先に入室していた人物に驚く。


「ガイア、それにトゥールの魔女さん?」

「り、リリーベル伯ぅ!」


 ガイアの背中に隠れるようにしがみついていたのは、地下にいるはずのトゥールの魔女だった。しかし、なぜか彼女の顔には目隠しが施されている。

 国王はルーク達にソファに座るように促すと、重々しく口を開いた。


「ラピスティア侯爵令嬢の件はすでに話を聞いている。犯行はトゥールの魔女が関わっている可能性が高い。そこの魔女の話によれば、報告に来たマイルズ家の使用人にも魔女の魔法の痕跡も残っていたようだ」


 国王がトゥールの魔女へ視線を送ると、彼女はびくりと肩を震わせて、首を大きく縦に振った。


「リリーベル伯、ラピスティア家はどうだった?」

「グレン様の千里眼では、トト嬢を見つけることができなかったようです。そして、トト嬢の誘拐を誤魔化すために、私宛の手紙を残していました。運命の相手と出会ったので駆け落ちするようですよ。本当に面白いですよね」


 ルークがそう言うと、この場の空気が凍り付いた気がした。

 ちょっと軽口のつもりだったが、滑ってしまったようだ。


「ごほん。トゥールの魔女」


 国王が咳払いをしてから、厳しい目を彼女へ向ける。


「この問題はそなたの国が我が国に敵意を向けたのと同意犠だ。そなたの話では、トゥール現国王ではなく、王弟の仕業ということだが、それが本当なら犯人を捕まえ、証明せよ」


 トゥールの魔女が黙って頷くのを見て、国王が眉間に皺を寄せる。


「トゥールの魔女、発言を許そう」

「は、はい……私は国王から遣わされた身。命を懸けて証明させていただきます。まず、誘拐されたご令嬢の捜索、そして魔女の対策として、魔法の使用の許可を頂きたく願います」

「いいだろう。しかし、ガイア・リリーベルの監視下で行うこと」


 ガイアの影に隠れていた彼女は、その姿を見せると深々と頭を下げた。


 ◇


 謁見後、アーロイはワーウッド家へ向かい、ルーク、ガイア、そしてフラウはトゥールの魔女を引き連れて地下の面会室へ移動した。

 彼女の国では王族との対面の際には、目を隠すのが慣例だったらしい。

 目隠しを外した彼女は嬉々として格子の奥へと戻っていき、今では脱力した様子で机に突っ伏している。


「し、死ぬかと思いました……祖国の悪行で処刑されるかと思った……」

「もう、アンタって子は……」


 トゥールの魔女の様子にガイアは呆れたように口を開いた。


「法律上、捕虜は殺せないってちゃんと説明したでしょ?」

「トゥールでは魔女に人権はないんですぅううううう! 王族の所有物なので粗相をしたら折檻もされるし、間引かれるんですよぉ!」


 魔女も同じ人間なのにまるで奴隷のような扱いである。思った以上にトゥールは闇の深い事情が抱えているようだ。


「ここはトゥールと違うって言ってるでしょ! 泣くのもいい加減にしなさい!」

「ぴぇ! はいぃ……」


 ガイアに叱られてしょんぼりするトゥールの魔女に、ルークが話しかける。


「あの、トゥールの魔女さん。今回の件、どうして魔女の仕業だと分かったんですか?」


 彼女はフラウの存在を気にしながらも、ゆっくりと説明した。


「ま、魔女は魔法を使うと、痕跡が残ります。ガイア様から頂いた物から、微かに魔法の痕跡を感じ取りました。おそらくガイア様の雫の力を阻害する魔法でしょう。ルーク様にもお顔の魔法以外に魔女の気配を感じます。何か持っていませんか?」


 そう言われて、ルークは内ポケットから手紙を取り出した。


「もしかして、これでしょうか?」

「それです! それを私に!」


 彼女は格子越しに食い入るように手紙を見つめ、「やっぱり」と呟いた。


「この手紙には認識を歪めさせる魔法がかかっています。おそらく、雫持ちを誤魔化せるように強めにかけたのでしょう。これがあれば、十分に魔女達の足取りが追えます」

「ほ、本当ですか!」

「はい。ですが……問題があります」

「問題?」


 ルークが彼女の言葉を繰り返すと、彼女はゆっくりと頷いた。


「今回の私は例外ですが、魔女は基本的に二人一組で行動をします。魔女の相方となるのは、必ず騎士の称号を持った者なのです」

「それがどこか問題なのよ? むしろ魔女が一人ならいいんじゃないの?」

「いいえ。例えば、今回のガイア様のお守りのように、魔女や不思議な力を持つ者を弾く罠があった場合、騎士は素通りしてしまいます。そして騎士は皆、魔女の魔法を打ち消す術を持っています。この国の雫の力も魔法と似ている部分があるので、ガイア様がお守りを直せないのも、騎士が秘密裏に令嬢に近づき、雫の力を阻害しているのかもしれません」


 トゥールの魔女はそう言うと、二人の後ろに控えていたフラウを見つめた。


「魔女と騎士を同時に相手にするのは、おそらく暗殺者でも難しいです」

「うーん……参ったな。もし、魔女と騎士が二人揃って裏切ったら、トゥールはどうするんだい?」


 フラウがそう訊ねると、彼女はすぐに答えた。


「魔女の間引きを担当する処刑人が対応します。彼らは殺人のプロなので」

「じゃあ、国の兵士が束になっても、魔女と騎士には勝てないってこと⁉」


 ガイアが声を上げたのに対して、魔女は首を横に振った。


「数で押せば勝てるでしょう。でも、今回の場合は国に逃げるのが目的。おそらく、認識を歪めて戦闘は避けると思います」

「他に方法はないのか? たとえば、君が出るとか」


 フラウの言葉にトゥールの魔女は力なく首を横に振る。


「騎士が相手になれば太刀打ちできません。よほど入念な準備をしなければ……でも、一つだけ方法があります。ルーク様」


 トゥールの魔女は青い瞳でルークを見つめた。


「魔女と騎士をどうにかできるのは、貴方様しかいません。どうか、お力をお貸しください」



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