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第47話 信頼

 

 アーロイと共に宮廷に戻ったルークは、クラウドとも合流し、謁見の申請をした。

 緊急性を考えるとそう待たされないだろう。

 クラウドの執務室で待機している間に、ラピスティア家で聞いた話をクラウドに伝えると、彼はため息をついた。


「トト嬢の失踪か……まるで示しを合わせたようなタイミングだな」


 その意味深な呟きに、ルークは声を固くする。


「何かあったんですか?」

「最近、ガイアにクレアの側付き魔女の対応をさせていてな。その魔女が国内にトゥールの魔女が侵入していることを察知したらしい」

「どうやって気付いたんですか?」

「分からん。正直、魔女である時点で信用に欠けるからな。しかし、トト嬢の失踪があったのなら、ある意味納得する。魔女は相手が仲間であるにも関わらず、自分も魔女の捜索に加えろと言っているようだ」

「いくらガイアが懐柔したとしても、本当に信用できるかは別の話でしょう」


 アーロイは首を横に振ると、「弱そうに見えても魔女ですからね」と肩を竦めた。


「最終的な判断は陛下だ。オレ達は陛下の指示に従うしかない」


 クラウドがそう口にした時、執務室のドアを叩かれた。

 アーロイとクラウドに視線で対応するように促され、ルークは席を立った。


「はい。なんでしょうか」


 ルークがドアを開けると、そこには面布を付けた男が立っていた。


「あれ……どなたですか?」


 その男はルークによく似た口調で、仕草で、そう口にした。

 面布に隠された顔は印象深いものの、他はなぜか印象に残らない。背格好もルークに似ており、不気味な感覚を覚えた。


「殿下、アーロイ様、一体、この方はなんで私と似た格好をしているんですか?」


 ルークの真似をする男の登場に、驚いたルークが振り返ると、アーロイとクラウドも目を限界にまで開いてルークとその男を見ていた。


「「は?」」

「は?って、もしかして、私が分からないんですか? 私です、ルークです。もしかして、そちらの面布の方はトゥールの魔女が作った偽物ですか?」


 男は身構えると、その面布には『疑』という字が浮かんでいる。

 この面布はルークしか持っていないはずだ。なぜ、彼が持っているのか。


(トゥールの魔女? いや、それならなぜここに)

「殿下達なら、私が本物だと分かってくれますよね?」


 魔女は言霊を操る。彼らはガイアのお守りを持っているが、魔女の力をどれだけ弾いてくれるか分からない。


(もしかして、私に成り代わる気か⁉)

「お前がルークだと?」

「ええ、いつも通りに本人確認をしますか? いくらでも答えますよ」


 クラウドとアーロイは、厳しい目つきでルークと男を交互に見やると、顔を見合わせて頷いた。


「「お前、ふざけてるのか?」」


 二人は声を合わせて言い、ルークも男も面食らう。


「は、はい?」


 戸惑う男に向かって、アーロイは深いため息をついた。


「オレ達からすれば、貴方の成りすましなんて、猿真似に等しいんですよ。私達は半年以上、ルークを完全コピーした人間と過ごしてきたんですから」

「アーロイの言う通りだ。お前に分かるかァ? 半年以上この顔に苦しめられたオレ達の気持ちが!」


 ルークの顔を指さしたクラウドの顔は、怒気に染まる。


「目を離す度に変わる雰囲気! 聞く度に印象が変わる声! おまけに顔が分からないのに、仕草も口調もルークそのもので、おまけにオレ達の過去を知っている不気味さ! 長年、共に過ごした大事な弟分なのに、どうしても疑ってしまうやるせなさがお前に分かるか⁉」

「殿下……アーロイ様……」


 ルークの不気味さは、以前二人から聞いた。あの時は声までも分からなかったとは思わなかったが、ガイアと同様に二人にも負担を掛けただろう。

 クラウドはさらに言葉を続けた。


「お前が本当にルークだと言うなら答えてみろ! 今まで怒ったことがなかったお前が、初めてオレを怒ったことがあったな! それはいつか言ってみろ!」

「あー、懐かしいですね」


 男は小さく笑いながらこう答えた。


「殿下が私に無期限の休暇を与えた時です」

(あ~、懐かしいですね)


 ガイアに宮廷で仕事を与え、自分にも何か仕事をくれるだろうと思っていたのに、結局休暇を与えられてその理不尽さに怒った時があった。

 しかし、ルークが初めて怒った時はその日ではない。


「お前は?」

「私がこの顔になって、殿下に無視された時です」


 どんなに言っても自分がルークであることを信じてもらえず、長年共に過ごしていたクラウドなら分かってくれると思っていたのだ。

 仕方ないこととはいえ、自分の無視したクラウドにルークは怒りを覚えたのである。


 出会った当初は稽古と言っていじめられ、虫取りの時は大量の虫かごを持たされ、自分の失敗をルークのせいにした。

 歳を重ねてまともな扱いになったが、それでもクラウドのオレ様気質は抜け切れず、今も振り回されることもある。

 しかし、長年積み重ねていった信頼関係はたしかにあったのだ。

 それなのに、あんなあっさりと自分を見捨てたクラウドにルークはこう思った。


『あんなに尽くしてきたのにこの仕打ちか!』


 こうしてルークは本人だと証明するために、ルーク達しか知らない過去を暴露してやったのである。

 幼い頃の話ならただの笑い話だろう。少しは恥をかけと。

 ルークの答えを聞いたクラウドは口端をゆっくり持ち上げた。


「正解だ」


 おそらく、この男はルークの仕草や口調を真似られるくらいにはルークのことを調べたのだろう。

 しかし、ルークにはちょっとした空白期間がある。


 それは、この顔になってから、面布ができるまでの期間だ。


 クラウドやアーロイ、ガイアはどうにかルークと認識できるが、他者は気味が悪い男がいると思うだけ。そのため、あの日怒りに叫んだルークをルークだと周りは認識できず、ルークが怒ったのは無期限の休暇を与えた日ということになったのだろう。


「情報が間違っていて残念だったな、この猿真似野郎」


 クラウドが男に向かって言うと、男の面布に「笑」という文字が浮かび、大きな笑い声をあげた。


「はっはっはっはっはっはっは! これは一本取られましたな!」


 そう言って男は面布を外すと、その素顔が露わになる。


「殿下達が築き上げた信頼関係……このフラウがしかと見届けました」


 それは先日中庭で再会したフラウだった。


「やっぱりお前か、フラウ!」

「まあ、これだけ存在感がないのは彼くらいでしょうね……」


 どうやらクラウドとアーロイも彼と知り合いだったらしい。


「二人とも知り合いですか?」


 ルークがそう訊ねると、クラウドが苦虫を噛み潰したような顔をして言った。


「王家直属の影の筆頭だ。影が薄いのもコイツの雫のせいなんだよ」

「いや~、試すようなことをしてすみません。我々は次世代へ繋ぐ前に信頼関係を試すことになっているんですよ。ルークくんの顔がまたおかしくなったって聞いたから試すのにちょうどいいと思って。ちなみに、この面布はラピスティア侯爵令嬢が作ったレースだ」


 ケタケタと笑うフラウにアーロイが冷たい視線を送る。


「それで? いい年した中年がこんな大変な時におふざけしに来たんですか?」

「相変わらず容赦ないなアーロイくんも……ごほん」


 フラウが一つ咳払いすると、彼が纏う空気がガラリと変わり、笑っていた目は冷たい光を帯びた。


「国王陛下がお呼びです。すぐに執務室へ向かってください」



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