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第46話 失踪

 

 マイルズ家の使用人から話を聞いた後、ルークとアーロイはラピスティア家に呼び出された。

 姉に会いに行く為、トトを乗せた馬車はマイルズ家に向かう途中で行方を眩ませてしまったらしい。

 約束の時間を過ぎてもトトがマイルズ家に到着しないため、シャルロットが実家に問い合わせ、事態が発覚したのである。

 そしてルークは、ラピスティア侯爵から渡されたものを見て頭を殴られた気分だった。

 それはトトが残した置き手紙だった。



 拝啓 ルーク・リリーベル様

 突然のお手紙で驚かれたかもしれません。

 この手紙を読んでいる頃には、私はもう王都を離れていることでしょう。

 貴方にお伝えたいことがあります。

 先日、私は運命の人と出会いました。彼は私が落としたハンカチを拾い、優しく私に微笑んでくださったのです。

 間違いなく一目惚れでした。あの時は気恥ずかしく受け取ることはできませんでしたが、確かに恋に落ちたのです。

 しかし、私と貴方は王家を通じて婚姻を結ぶ身。

 私は貴方との婚姻を無にするつもりはなく、この想いを相手に伝えるだけに留めるつもりでした。しかし、彼も一目で私に惹かれていたと仰ってくださったのです。

 私はもう自分の気持ちに嘘を付けません。

 私は彼と家を出る決意をしました。

 貴方を傷つけるようなことをして申し訳ありません。でも、心優しい貴方なら分かってくれることでしょう。

 私のことは忘れてください。どうかお元気で。


 トト・ラピスティア



 ルークが読み終えて顔を上げると、ラピスティア家の面々が青い顔でルークの様子を見つめていた。


「リリーベル伯。まずは落ち着いて聞いて欲しい」


 声を震わせてそう言ったのは、ラピスティア侯爵だ。


「うちの娘に限って駆け落ちはない」

「そうだ! トトはルーク様にぞっこんだったんだ!」


 グレンも身を乗り出して言い、隣にいたシルベスターも大きく頷いた。


「それにトト姉様は婚約式を楽しみにしていたんですよ! それなのにどこの馬の骨かも分からない男と駆け落ちとかあり得ま……」

「こら、シルベスター!」


 ルークにとって駆け落ちは過去の傷口に塩を塗り込むような言葉だ。

 グレンが慌ててシルベスターの口を塞いでいたが、ルークは気にせず再び手紙に目を落とす。

 反応の薄いルークの態度が気になったのか。それとも室内に流れる沈黙に耐えられなくなったのか、ラピスティア侯爵が口を開いた。


「リリーベル伯?」

「面白い冗談ですね。この手紙の差出人は一体誰なんですか?」


 ルークの言葉に、室内に流れていた空気が和らいだ。


「トトの手紙じゃないって信じてくれるのかい?」

「信じるも何も、筆跡が全然違うじゃないですか」


 トトと何度も手紙のやり取りをしているルークは、彼女の字を覚えている。

 彼女は綺麗で読みやすく、女性らしい字を書いていた。そして、字の並びが少しだけ右上がりになる。

 この手紙の主は読みやすい字ではあるものの筆圧も強く、紙に傷が残っている。それに名前の最後にペンを叩く癖があるようだ。


「本当……面白い冗談です」


 手紙の内容もおかしな部分が多い。彼女は手紙でもルークのことを『貴方』とは書かない。


(『心優しい貴方なら分かってくれることでしょう』なんて上から物を言う言葉を彼女は使わない)


 彼女は侯爵令嬢であるのに対し、伯爵位であるルークとガイアのことを敬称で呼び、丁寧に接してくれていた。ルークのお見合い事情を知る彼女が、あえてルークを傷つける言葉を選ぶわけがない。

 これは立派な偽装だ。


「絶対にトト嬢を取り戻します」

「リリーベル伯。とても言いづらいんだが、トトを探そうとグレンが魔眼を使ったが見つからなかったんだ。あのシャルロットも予見できていなかったのをみると、魔眼を阻害されている可能性がある。探そうにも手がかりが……」

「この間のガーデンパーティーで彼女のハンカチを拾ってくださった方がいました。しかし、彼女は受け取らず、私が受け取ったんです」


 あの時、彼女はウルズと一緒にいた人だと言っていた。社交になれているベルクシュタット公爵やクラウドが、不躾にウルズが連れてきた相手を気に留めないのもおかしな話だ。


「その相手はウルズ様の連れです。ワーウッド家を調べる必要がありそうですね」


 ルークが丁寧に手紙を折り畳み、アーロイに目を向けると、彼は満足気に頷いた。


「ワーウッド家の対応なら、私の出番だな。あそこの弱みはいくらでもあるからね」


 にっこり笑ったアーロイにルークも面布越しに笑って返す。

 そんな二人を見て、グレンとシルベスターが青い顔をして、腕を擦っていた。


「さすがは友人をやっているだけあるな……」

「ルーク様のお顔は見えませんが、絶対に悪い顔をしていますよ……」

「グレン、シルベスター。お前達は引き続き、トトの足取りを追いなさい」


 ラピスティア侯爵はそう言って二人を部屋から追い出すと、ふぅとため息をついた。


「護衛も付けていたんだけどね……あれの仕業か?」

「まだ分かりません。これから宮廷に戻り、陛下に伝えます」


 トゥールの魔女が本当に関わっているかは分からない。

 しかし、今地下に掴まっている魔女は、魔法で国境を難なく越え、宮廷に侵入した。もし誘拐犯が魔女であれば、トトの捜索は難しくなってしまうだろう。


(たとえ、魔女が相手でも、絶対に見つけ出します)


 彼女を守ると決めたのだ。何が何でもトトを助ける。



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