表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/52

第45話 顔ナシ

 ルーク・リリーベルは困惑している。


 久しぶりに顔を見せろとクラウドに面布をめくられた途端「お前、誰だ」と言われたのだ。

 誰も何も、つい先ほど自分の名前を呼んでいたじゃないか。


「殿下、何をおっしゃっているんですか? ルークです。ルーク・リリ―ベルですよ」


 そう口にすると、クラウドとアーロイが顔を見合わせた。


「そうだよな? ルークだよな?」

「ええ、そうです。ルーク、ですよね?」


 まるで互いに言い聞かせるような言葉に、ルークは強烈な不安に襲われる。

 二人の困惑しきった表情は以前にも見たことがあった。それがいつのことか、ルークは鮮明に思い出せる。


「そうだよな? ルークの髪はたしかガイアと同じ……?」

「ええ、そうです。瞳の色も……でも?」

「ちょ、ちょっと! 二人とも悪い冗談はよしてください! 私は……!」


 ルークがそう言いかけた時、二人がポンとルークの肩を叩いた。


「「戻ってるぞ、顔ナシに」」

「ええぇえええええええええええええええええっ⁉」


 自分の顔をペタペタと触ってみるが、触って分かるものではない。


「ええ⁉ 本当に⁉ 冗談ではなく⁉」


 自分の顔を指さすと、二人とも遠い目をしながら頷いていた。


「懐かしいな、この感じ……おい、ルーク。陛下のところからチョコレートをくすねてきた時があったな。そのチョコレートの名前は?」

「ウイスキーボンボンです。二人でかじった瞬間に吐き出しましたね」


 確かあれは、クラウドが大人の味がするチョコと聞いて、興味本位でくすねてきたやつである。齧った瞬間に強烈な酒の味がして吐き出したのはいい思い出だ。


「ルーク、オレはお前に色んなことを教えたが、この世で一番怖いものは何だと聞いた時、お前はなんて答えた?」

「アーロイ様と答えて怒られ、『民』だと叩き込まれました」


 懐かしい。個人への恐怖はいずれ心を歪めるから、考え方を改めなさいと言われた。

 二人はルークの回答に満足がいったようで、大きく頷く。


「「よし、ルークだな」」


 最近はやらなくなった本人確認に、彼らが本当に自分の顔が分からなくなったのだと実感した。


「な、なんでまた急に……⁉」

「トト嬢のやり方じゃ、完全に魔女の力を排除できなかったんだろ?」


 冷静に考えれば、そうなるだろう。彼女もただルークにまとわりついていたレースをはがしたと言っていただけだ。


「トト嬢を呼ぶしかありませんね……たしか、今日は妻に会いに行っているはずです。屋敷に連絡するので」


 アーロイは席を立ち、ドアを開けた時、廊下の外から慌ただしい足音が近づいてくるのが分かった。


「大変です! アーロイ様!」


 そう言って、やって来たのはマイルズ家の使用人だった。


「ラピスティア家からの連絡で、トトお嬢様が行方不明に!」


 その言葉を聞いて、室内に沈黙が流れる。


「は…………?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ