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第44話 異変

 

「殿下、お勤めお疲れ様です」


 謹慎が解かれた日、ルークとアーロイは彼の執務室に集まった。

 まるで服役を終えた上司を労うかのように言ったアーロイに、ルークは思わず口を挟んでしまう。


「ちょっと、アーロイ様! 冗談にしても不謹慎ですよ!」

「間違ったことは言ってないよ。殿下はちゃんと執務をしていたんだから。ですよね、殿下?」


 視察や社交はほとんど行わなかったが、代わりに慈善事業、結婚に備えて城下の美化計画や街道の整備について案を練っていたらしい。


「まあな。引きこもってるだけだと、色々言われるからな。ウルズにも『引きこもって仕事もしてないんじゃないか』って、お前にだけは一番言われたくないわ!」

「まぁまぁ。こうして謹慎も終わったことだし、いいじゃないですか」


 ルークがそう宥めると、眉間に皺を寄せたクラウドがルークの面布を指さした。


「お前、いつまでそれを付けてるんだ?」

「トゥールとの会談までですかね? 私の顔も交渉材料ですし」


 ルークの顔が戻った理由を探られれば、トゥールはトトの存在に気付くだろう。

 ルークとしては、面布はすでに身体の一部のような感覚を覚えてしまっているので、日常生活に支障はない。

 クラウドが何やら訝し気な視線をルークへ向ける。

 凝視していたクラウドがすっと面布に手を伸ばした。


「ちょっと久しぶりに顔を見せろ」

「え、嫌ですよ。恥ずかしい」

「恥じらうな。気持ち悪い」


 そう言って、問答無用に面布をめくられ、クラウドと目が合った時だった。

 眉間に皺を寄せていたクラウドの顔が驚き変わる。


「お前…………誰だ?」


 ◇


「やっほ~、元気にしてるぅ?」


 トゥールの魔女と顔を合わせるようになったガイアは、軽い口調で格子越しにいる魔女へ声をかける。

 最初は怯えていたトゥールの魔女もガイアが友好的な態度を示すようになって、だいぶ表情も柔らかくなってきた。


「はい。ガイア様もお元気そうでよかったです」


 悪かった顔色も今ではすっかり良くなっている。とはいえ、彼女の腕は未だに枯れ枝のように細く、健康とは言えない体つきをしている。


「アンタちゃんとご飯食べてるの? スタイルを保つのは大事だけど、痩せすぎも良くないのよ?」

「こ、この国に来てからは毎日食事を頂いています……むしろ、太ったくらいで……」

「トゥールではそんなに食べてなかったの?」

「しょ、食事は頂いているのですが、け、研究に集中していると、つい食べるのを忘れて……」

「不健康ねぇ。その様子だと、運動もしてないでしょ?」

「うっ」


 図星だったのだろう。彼女は呻くような声を上げると、ガイアから目を逸らしてしまった。


「アウトドア派だろうと、インドア派だろうと、身体が資本よ! せっかくだから健康になって国に帰りなさいよ」

「そ、そんな。捕虜なのに太って帰ったらおかしいですよ」


 そんなことを笑いながら話せるほどになり、二人の関係は良好と言っていいだろう。


「ところで、今日はどうしたんですか? いつも以上に機嫌がいいような……」

「分かるぅ~? 実はアンタにプレゼントがあるのよ」

「プレゼントですか?」


 トゥールの魔女は思いもしなかった様子で、目を見開いた。ただでさえギョロッとした目が本当に零れ落ちてしまいそうだ。


「そうよ」


 ガイアの合図で監視の一人が、彼女の前に細長い箱を置いた。


「開けてみて」


 恐る恐る彼女が箱を開けると、彼女は「わぁ……」と小さく声を漏らした。


「綺麗なネックレス」


 それはペンダントトップに青い石がついたペンダントだ。石の周りは細いワイヤーで飾りがついており、その繊細な作りにトゥールの魔女が目を輝かせている。


「もしかして、これ……ガイア様がお作りに?」

「よく分かったわね! そうよ!」


 ブードゥー人形をワイヤーで骨組みを作るようになり、余ったワイヤーで飾りを作るようになったのだ。


「ちゃんと触れて良かったわ~」

「どういうことですか?」

「だってそれ、アンタに悪意がないって証明するためものなんだもの。もし、悪意があるものなら、前みたいに怯えるかもって思ってたのよ」

「ひぃ! なんてものを!」

「でも、大丈夫でしょ? 『魔女死すべし!』って気持ちで作った人形とは違うから安心しなさい」


 これは国王に依頼されて作ったものだ。あの人形に込めた思いと違うものを込めれば、違う効果の物が作れるのではないかと思い、作ってみたのだ。


「なんか付けるのが怖いですぅうううう……」

「ちょっと、何よ、その反応? せっかくあげたプレゼントなんだから!」

「うう……初めて異性からもらったプレゼントがこれなんて……」


 『初めて異性からもらったプレゼント』と聞いて、ガイアは少し居心地の悪さを覚えた。

 彼女からすれば、首輪を渡されたようなものだろう。初めての貰い物ならあまりいい気分がしないのは分かるが、こうでもなければ彼女にプレゼントを渡せない。


「あら、悪かったわね?」

「いえ、でもありがとうございますぅ……あれ?」


 トゥールの魔女がきょとんとした顔でペンダントを見つめ、そして、ガイアの胸元を見つめる。

 そして、上から下までガイアを見つめる様子は、まるで何かを探しているようだった。

 魔女対策用の人形は、彼女に会う前に扉前の監視に預けている。もちろん、トトから預かった人形もだ。


「どうしたの?」

「ガイア様……最近どこかへお出かけしましたか?」

「お出かけ?」

「もしくは、誰かとお会いしたとか……?」


 最近の出掛けといえば、トトとのお出かけくらいだろう。誰かと会ったかといえば、ルーク達の婚約式の関係で商人や衣装のデザイナーを呼んだ時。


「うーん、心あたりがあり過ぎるわね……」

「じゃ、じゃあ! 何か不思議なこととかは⁉ なんでもいいんです!」


 何か必死の様子の彼女に困惑してしまうと、ガイアは首を傾げる。


「そういえば……最近、人形が作りづらいのよね。作ってる間に糸が切れちゃうのよ」


 トトから預かった人形はいくら力を加減しても、途中で切れてしまうのだ。

 もう糸を何玉無駄にしたか分からないくらいである。


「ワイヤーさすがに大丈夫だったけど、それがどうかしたの?」

「………………ガイア様、よく聞いてください」


 長い沈黙の後、彼女はこうはっきりと口にする。


「国内に、トゥールの魔女が紛れ込んでいます。早急に対処すべく、私も捜査に加えさせてください」


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