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第4話 初めての相手

 

(困ったな……どうしよう)


 マイルズ家のパーティーに参加していたルークだったが、どこかの家の子どもに面布(かおぎぬ)を取られてしまった。

 その子どもはあっという間に見失ってしまい、周囲に不審な目を向けられ始めた。このままではマイルズ家をつまみ出されると思い、ルークは中庭に逃げ出したのである。


「どうしよう……」


 面布の予備は屋敷にある。しかし、取りに行くにしても御者もルークを識別できないだろう。


(ガイアを呼ぶ? いや、いくらガイアでも面布がないと私のことは分からないし……実の弟にまた不審者を見るような顔をされたら、心が折れそう……)


 あーでもない、こーでもないと中庭のベンチで頭を抱えていると、誰かが近づいてくる気配を感じた。


「あの……大丈夫ですか?」


 顔を上げると、そこには深紅の髪色をした少女が立っていた。おそらく、ルークと年が近いであろう彼女は、ルークの顔を覗き込む。


(やばい、不審者だと思われる!)


 ルークがハッとした時にもう遅かった。彼女はルークの顔を見て、水色の瞳を大きく見開く。


「まあ大変! 顔色が悪いですよ!」

「え……」

「今すぐ人を呼んできます!」


 早足で離れていく彼女の背中をルークはただぽかんと見つめていた。


(今、彼女……私の顔色が悪いって……)


 面布がないと相手は顔立ちだけでなく顔色も認識できないはず。ぺたぺたと自分の顔を触る。もちろん面布はついていない。


(私の顔が認識できた? いや、もしかしたら不審者から遠ざかるための方便だったのかも……)


 待っていれば分かることだ。また彼女がこの中庭に来た時、きっとルークを見ればさっきと別人だと認識するだろう。


「あの方です!」


 そんな声と共に彼女は再びルークの前にやって来た。彼女と一緒にやって来たのはマイルズ家の使用人だ。

 その使用人はルークを怪訝そうに見やる。


「あの……この方は一体? 別に体調が悪そうには見えないのですが……?」

「え……あれ?」


 困惑する使用人を見て、戻って来た彼女は再びルークの顔を見つめる。


(ほらやっぱり)


 ルークが力なく笑うと、彼女はきゅっと眉間にしわを寄せてルークの腕を取った。


「やっぱり顔色が悪いです。休めるところへ案内をお願いします」

「…………かりこまりました。念のため、お客様のお名前を伺っても?」


 あからさまに警戒している使用人にルークは零しそうになったため息を抑えた。


「…………ルーク・リリーベルです」


 観念したように答えると、彼はさっと顔色を変え、慌てて空いている客室へルークと彼女を案内した。


「今すぐアーロイ様とガイア様をお連れします!」


 そう言って彼は足早に退室していき、室内にいるのは、ルークと彼女の他にメイドが数人だけ。


「大丈夫ですか? 少し顔色が戻ったようですが、あまり無理をなさらないでくださいね」


 心配そうな顔で言う彼女に、ルークは恐る恐る訊ねた。


「あのう……つかぬほどお伺いするのですが……私の顔って分かります?」


 彼女は一瞬ぽかんとした後、小さく頷いた。


「はい。銀髪に琥珀色の瞳をしてて……ちょっと垂れ目ですよね?」


 彼女の言う通り、ルークは銀髪に琥珀色の瞳をしている。よく優男風と言われるのも目尻が少し下がっているせいだ。

 ただ、ルークにはもっと決定的な特徴があった。


「他には?」

「え……えーっと……」


 彼女は自分の左目の下を指さす。


「左の目尻に小さなほくろが二つ、縦に並んでます」

「──!」


 他者がルークの顔を認識できなくなってから、クラウドやアーロイだけでなく、実の家族も髪や瞳の色すらも思い出せなくなっていた。

 彼らは『おそらく、ルークはリリーベルの色である銀髪に琥珀色の瞳をしているのだろう。優しい顔をしていたような気がするから、きっと垂れ目か垂れ眉だ』と口々に言っていたが、それはあくまで憶測に過ぎない。

 しかし、ルークの左目尻に並ぶ二つのほくろを思い出せる人間はいなかったのだ。


(彼女は私の顔が分かる? もしかして……戻った?)

「あの……」


 声をかけられてハッと我に返ると、彼女は困ったような笑みを浮かべていた。


「そろそろ戻らないと家族が心配するので、失礼します。お大事になさってください」

「え、あ、はい……」


 彼女はルークに淑女の礼を取り、部屋を出て行く。

 彼女を見送った後、室内に控えているメイド達にルークは顔を向ける。

 メイド達はおろおろとした様子でルークを見るばかりだ。


「あのう、私の顔が分かりますか?」


 ルークが自分を指さすと、彼女達は首を横に振った。

 考えてみれば、この部屋まで案内してくれた使用人もルークの顔を分かっていないようだった。名前を聞いてアーロイとガイアを呼ぶと言ったのは、きっとアーロイが周知していたのかもしれない。


(もしかして、あの子は本当に……ん?)


 遠くから地鳴りのような慌ただしい足音が近づいてきたかと思うと、勢いよくドアが開いた。


「アニキぃいいいいいいいいいいいいいいっ!」


 真っ先に飛び込んできたのは、子どもに取られたはずの面布を握ったガイアだった。

 ルークに飛びつこうとするガイアを止めたのは、アーロイ。そしてクラウドもその後に続く。


「ガイア。まずは本人確認だろ?」


 そう言ってアーロイがメイド達を外に追い出した後、不機嫌な顔をしたクラウドがルークの前に立つ。


「オレが初めてラブレターを書いたことがあったな。その相手は?」

「女の子と間違えられたうちの弟。知った直後にその場で破り捨てましたよね?」

「よし、ルークだな」


 クラウドが頷いたところで、ガイアに手渡された面布をつける。


「ガイアがこれを取り戻してくれて、助かったよ……」

「悪ガキはアタシががつんと叱っておいたからね! これがないと死活問題なんだから」

「まったくだ……毎回本人確認をする身にもなれ」


 クラウドがそう言って、ようやく皆がほっと一息を付いた後、ルークはおもむろに面布をめくり上げた。


「どうしたんだい、ルーク?」


 首を傾げるアーロイに、ルークは自分の顔を指さした。


「やっぱり、殿下達も私の顔が分かりませんよね?」


 三人は同時に顔を見合わせると、じっとルークの顔を凝視する。


「髪色とか、目の色とか形とかも分からないですか?」


 さらにルークが問いかけると、三人は頷いた。


「ごめんね、アニキ」

「まったくわからん」

「長年、見ている顔なのにね……」


 ガイアは悲し気に俯き、クラウドはふんぞり返り、アーロイは苦笑する。

 三者三様の反応に、ルークは確信した。


「さきほど、私の顔が分かる女の子にあったんです」

「「「はぁ?」」」


 三人の声が綺麗に重なった。

 そして、ガイアとクラウドが物凄い剣幕でルークの肩を掴む。


「おい、ルーク! なぜ、その女をこの場に残しておかなかった!」

「本当よ! もしかしたら、アニキの顔を解決できる子かもしれないじゃない!」


 ずいっと迫ってくる二人に、ルークはしどろもどろになりながら答えた。


「いやだって……見知らぬ男と同じ空間にずっといさせるわけにもいかないし……」

「「自分が一番深刻な状態であることをもっと自覚しろっ!」」

「はい、すみません!」


 二人に怒鳴られたルークは即座に謝る。


「ルーク、その子は一体どんな子だ? 特徴を教えてくれれば、探してあげられる」


 アーロイはこのパーティーの主催者だ。招待客の顔を覚えているかもしれない。

 ルークはゆっくり彼女の容姿を思い出す。


「えーっと、派手な深紅の髪に水色の瞳で……私と同じくらいの歳の子です」


 アーロイは頭の中にある招待客リストとその少女の容姿を照らし合わせているのだろう。しばらく、黙って見守っていると、彼は低く唸った。


「該当する子がいることにはいるんだが……」


 どこか歯切れの悪い答えに、ガイアが怪訝な表情を浮かべる。


「何? 問題児なの?」

「いや、良い子だよ。オレの義理の妹だからね」


 アーロイの妻の実家といえば、魔眼一族のラピスティア侯爵家。その家の娘となれば、期待ができる。

 しかし、アーロイが気まずそうに答えた。


「でも、彼女……雫持ちじゃないんだよね」

「へ?」

「稀にいるらしいんだ、彼女の一族に星から雫が与えられない子が。どうやら、それが彼女の妹、トト嬢らしい」


 アーロイから事情を聞いた皆はぽかんとする。


「雫持ちではないと思ってたら、実は雫持ちだったってこと……?」


 ルークの言葉にアーロイは頷く。


「おそらく。彼女の家族が何も気にしていないのを見るに『なんの雫持ちか分からないけど、何かしらは持ってるだろう』って考えがあったのかもね。妻が言うには、自分も含め、彼女の父、兄、弟は歴代の中でも分かりやすい魔眼らしいから」


 アーロイはそう言った後、ルークの肩を叩いた。


「そうと決まれば、お見合いだな」

「は?」


 アーロイの言葉に、ルークは耳を疑った。


「お、お見合い……?」

「そうだ。もし、お前の顔が分かるなら、これ以上の相手はいない!」

「そ、それはそうですけど……!」


 婚約式で苦い思いをしたばかりルークは、素直に頷けない。そんな思いをアーロイは汲み取ってくれたのだろう。


「顔合わせだけでもいいじゃないか。ルークは彼女にまた会いたくないのか?」

「…………また、お会いしてみたいです……あ、彼女自身の了解を得たらですよ⁉」


 この間、親に言われたから婚約したと暴露されたルークは慌てて付け加えると、事情を知る三人がそれぞれ呆れ、同情、憐みを含ませたため息を零すのだった。


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