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第37話 婚約の承認


 急遽国王との謁見が叶い、報告も兼ねて面布の下を見せた。さすがに叫ばれはしなかったが、国王宰相両者ともに静かに泣かれてしまい、別の意味で混乱を招いた。

 そして早急にラピスティア侯爵とトトを呼び寄せることになり、翌日に謁見が決まった。

 

 翌日、ルークが宮廷に到着してから、少し遅れてラピスティア侯爵家の馬車がした。


「やあ、リリーベル伯。昨日ぶりだね。まさかこんなすぐに謁見になるとは思わなかったよ」

「すみません、ことがことだったもので、早急にと」


 彼らはまだルークの顔が戻っていることを知らない。ルークも面布を付けたままなので気付いてもないだろう。


「トト嬢も、きてくださりありがとうございます。宮廷に初めて上がるんですよね?」

「は、はい! よ、よろしくお願いします!」


 がちがちに緊張しているトトのエスコートをラピスティア侯爵から譲られ、ルークは謁見の場である国王の執務室へ案内する。


 執務室には国王、宰相だけでなく、クラウド、アーロイ、そしてルークより先に出仕していたガイアが控えていた。


「此度は通常の謁見とは異なるため、皆楽にするといい」

「恐れ入ります」


 ルーク達はソファに腰を下ろすと、宰相のマイルズ侯爵が言った。


「まず、ラピスティア侯爵家、トト嬢。リリーベル伯爵家、ルークの婚姻を認めます。しかし、トト嬢はまだ社交界デビューを迎えてないことから婚約とする」


 無事に承認され、ルークはほっと胸を撫で下ろした。


「して、ここから先が本題である」


 重たく響いた国王の声に、隣にいるトトが身を固くしたのが分かった。


「リリーベル伯の顔が元に戻った」


 それを聞いた瞬間にトトはぎょっと目を見開いてルークを見上げる。トトは元からルークの素顔が見えていたため気付かなかっただろう。


「事前に人払いを済ませている。この件について、様々な意見を聞きたいと考えている。この場にいる者に発言の自由を許す」

「では。恐れながら」


 ラピスティア侯爵が手を上げると、ルークに目をやった。


「リリーベル伯、本当かい?」

「はい、この通り」


 ルークが面布をめくり上げると、ラピスティア侯爵は「ぎゃっ⁉」と短く悲鳴を上げて手で目を覆う。


「リ、リリーベル伯……面布をめくられても、眩しすぎて顔は見えないんだよ……」

「あ、そうだったんですね」


 遮光板付き眼鏡をかけていても、眩しそうにしており、ルークはすぐさま面布を下ろした。


「この通りだ。リリーベル伯の顔が戻った原因を知りたい。聞けば、昨日の朝までは顔が分からなかったようだ。心当たりはあるか?」

「おそらく、トトと話をしていた時でしょう。私が彼らから婚姻の話を受けた時には、この眩しさだったので……」


 ラピスティア侯爵がルークの眩しさで目を何度も瞬きながら答えると、周囲の目がトトに向けられる。


「まず、トトの魔眼について説明させてください」


 ラピスティア侯爵の言葉を合図に、トトは昨日ルークにも見せたレースを取り出す。


「このレースはリリーベル伯の面布から着想を得た作ったものになります。本来ではこの通り、普通のレースですが……」


 トトがレースをひっくり返すと、透けて見えるはずのレースが一枚の布地のように変わってしまった。


「このように、面布と同じ効果を発揮いたしました。マイルズ侯爵家に嫁いだ長女、シャルロットは、人の心やその歩んできた軌跡を可視化し、不思議な力を与えるのではないかと推測していました。しかし、面布の魔法や雫の力まで可視化できているようです」


 それを聞いた国王は深く頷くと、トトに再び目を向ける。


「そなたの目にはどう映っておる?」

「そ、そのっ……」


 緊張して言葉がでないトトの背を叩き、そっと耳打ちをする。


「陛下はお優しい方なのでゆっくりで大丈夫ですよ」


 そう言うと、トトは少しほっとした顔で口を開いた。


「レースの柄や、その人を覆うヴェールのようなものが見えます……私からすれば、魔法や雫の力というよりも、姉が推測した通り、人の心や軌跡を可視化していると思っています」

「なるほど……」


 国王が悩まし気に顎を撫で、マイルズ侯爵も難しい顔をしていた。


「その魔眼でリリーベル伯の魔法をどのようにして解いたのだ?」

「魔眼で解いたというより……その、魔眼で見えたルーク様のヴェールを触れられることが分かりました。それでルーク様に似合わないレースを見つけて、引き剝がしました」

「引き剥がす? どうやって?」

「こう、無理やり……」


 仕草を交えながらトトが答えると、国王が低く唸り始める。


「魔女の対抗策にするには、あまりにも情報が少なすぎるな……」


 国王はそう言葉を漏らすと、ルークがはっと思い出す。


「トト嬢、その時に見たレースの柄をまだ覚えていますか?」

「え……はい。少しだけ……」

「なら、それを書き出してトゥールの魔女に解析してもらうのはどうでしょうか?」

「それはならん」


 国王の言葉に、しんと沈黙が流れた。


「トト嬢がデザインした『恋するヴェール』。あれは何も力を持たない針子が作ったと聞いている。アーロイ。間違いではないな?」

「はい。妻に確認がとれております」

「つまり、他の誰が作っても同じ効果が発揮されるということだ。それは顔が認識できず、他者に嫌われるという魔法が容易に量産できることを意味する。たしかに魔法はトゥールの魔女の専売特許。解析も可能だろうが、相手に攻撃手段を与えるようなものだ」

「……考えが及ばす、大変失礼いたしました」


 ルークは深々と頭を下げると国王の方から深いため息が聞こえた。


「そなたの面布作りに協力したトゥールの魔女が、そなたを傾倒しているのは分かっている。しかし、まだ信用に足りない。宮廷内では未だに王妃とクラウドが魔女と通じているのではないかという根も葉もない噂が流れている。クラウドの為にもそなたも接触を控えるように」

「仰せのままに」

「また、リリーベル伯の顔について、昨日の騒ぎで知っている者もいるだろうが、詳細を他者に伝えるのを禁じる。トト嬢の魔眼についてもだ。魔眼はまだ自在に扱えないと聞いている。トト嬢は魔眼が扱えるよう努めるように」

「はい」

「また、このレースはこちらで厳重に保管する。話は以上だ」


 傍に控えていた国王の従者に、トトは少し残念そうに渡し、謁見は幕を閉じた。



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