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ラプトル(猛禽)の爪   作者: 祥々奈々
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麻取

 刑事局第4班麻薬取締係 優男やさおとこジェイと平凡ニシはダウンタウンに近いオフィス街にある5F建て雑居ざっきょビルを張り込んでいた。

 時間は深夜2時を10分過ぎたころに動きがあった。

 人気のない通りに幌付ほろつきのトラックがディーゼル音をひびかせ横付けされる。

 「ニシさん、来ました」

 向かいのビル5階の一室を借り切った部屋のカーテンの隙間すきまから監視をしていたジェイがささやくように報告する。

 ジェイは捜査任務や鑑識かんしきの覚醒者であり、管理官としての能力も高い。

 年齢はニシより10才下の28才だが階級は2つ上であった、本来なら捜査班長として管理官室づけでデスク勤務となるのが通例だが班長への昇格を慰留していた。

 ニシはメモを片手にジェイに近づく。

 トラックの運転席と助手席にはそれぞれつば付き帽を目深にかぶり作業着を着た男が座っている。

 待つことなく雑居ビルから同様の服を着た男たちがドカドカと出てくると次々に荷台に乗り込んでいく。

 「運転席に2名、ビルから乗り込んだのが10名、荷台の大きさからして事前に乗ってはいないでしょう、合計12名で間違いないと判断します」

 「トラックのナンバーはT100N2898 グレーの幌付き社名なし」

 ジェイはトラックから目を離さずに報告する。

 ニシは照明のない暗がりの中で素早くメモすると部屋奥にある無線機を取り報告を繰り返した。

 「素人ですね、臨時的に駆り出されたシティ開発の手下連中でしょうか」

 夜半とはいえ幌付きのトラックで事務所前に乗り付けるなど目立ってしょうがない。

 「少なすぎる、マフィアも人手不足のようだな」

 ニシが半場呆れたように溜息ためいきをつき、ジェイに防弾チョッキを手渡した。

 シティ開発は表向き不動産業の登録になっているが新興しんこうマフィア “ラドウ”のフロント企業のひとつだ、麻薬流通の一端ではないかとの疑いから数か月前からマークしていたが、今回の運河襲撃事件以降、ラドウ周辺の不穏ふおんな動きを二人は察知していた。

 「タレコミの信憑性しんぴょうせいが高くなってきました、ちょっと今も信じられませんが」

 「本当だとすれば今回のことで”エス”に足が付くかも知れん、ヤツにはしばらく飛んでもらうしかないな」

 “エス”とは捜査員が個人的に飼っている情報屋のことだ、どんな人物なのかは相棒でも知り得ない。

 「前代未聞ですよ、マフィアが押収されたブツを奪い返しに来るなんて」

 2人は防弾チョッキを装着すると、14式拳銃をホルスターに留める。

 「14拳銃で足りる相手なら良いのですが」

 ジェイが予備弾倉を装着しながら不満そうだ。

 麻取に官給される拳銃は14式一丁のみだ、8ミリ弾ではマフィア相手にも火力不足はいなめない。

 いくら末端価格10億のブツでも国家に押収されたものを強奪ごうだつするなどリスクが大きすぎる、刑事部員に死傷者がでればラドウは解体まで追い込まれることは目に見えている。

 悪徳議員や飼殺している官僚を使って圧力を掛けてくるぐらいが通常だ、武力行使など聞いたこともない。

 ニシが飼う”S”の情報によればラドウがカチコミの準備をしており、兵隊を集めているようだ、兵隊といっても所詮しょせん町のチンピラであり刑事局との全面戦争になれば勝ち目などありはしない。

 ラドウは武闘派の一面もあるが10以上のフロント会社を持つインテリマフィアだ、幹部の中には覚醒者も含まれ無茶をするようなことはないと思われていた。

 ジェイは今回押収したベタの量が多すぎることが気になっていた、国内でさばくには多すぎる量だ、需要じゅよう以上に流通させれば値崩れが発生する。

 また、変質しやすいベタを数年間も保管するには定温倉庫の調達や警備、情報漏れの危険性など維持費が掛かりすぎる。

 ラドウには組織を引くに引けない理由があるのだ、国家を相手にしてでも。

 2人は公用バンに乗り込むと襲撃予想地点、押収したベタの保管庫がある刑事局中央倉庫ではなく、反対方向に向けて車を走らせた。

 「何度も言うが覚醒者のお前が、俺に付き合う必要はないぜ」

 ニシはハンドルを握るジェイに防弾チョッキのサイズ調整を最大限緩めながら話す。

 「自分はニシさんの感を信じます」

 ニシはSのもたらした情報は欺瞞ぎまんであり、ラドウの狙いは別にあると読んでいた。

 可能性は上に上げたが、保身を優先する管理者たちは自施設の保全を第一と考え、他局の被害の可能性については無視した。

 「始末書に減給かもな」

 「望むところです」


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