表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラプトル(猛禽)の爪   作者: 祥々奈々
6/38

カミカゼ

 死の瞬間、走馬灯そうまとうを見るというがその映像の前に星形14気筒の断末魔の絶叫がリオの意識を現実世界に引き戻した。

 バォッ、飛び出した音源……ローズ機は生きていた。

 垂直上昇させたハンマーヘッド機動を失速前に背面反転捻はいめんはんてんひねりり、テールをスリップドリフトさせ降下姿勢にうつる、機体をピンで止めたようなマニューバ機動。

 神技

 首無し騎士に向けて一直線に加速、加速、加速 ! 

ガォォォォッ 咆哮ほうこうするエンジン音はローズの叫びか。

 リオの頭上を背面で飛び越え、カミカゼが突入する。

 ガッキャアアァァン  ゴッシャアァァ

 地面と機体と翼竜の凄まじい衝突音、火花を散らしながら50メートルを滑りながらお互いをすり潰す。

 ドッガァアアア・・・ン

 最後はその速度を維持したままコンクリート壁に突っ込んで停止した。

 一瞬の出来事、現実とは思えなかったが呆けている場合ではない。

 「ローズ姉 !ローズ姉!!ローズ姉さん!!」

 リオは走りだしていた。

 機体にたどり着くともげかけた翼に駆け上がる、衝突の衝撃でキャノピーは吹き飛んでいるコクピットにローズの姿がそこにあった。

 「ローズ姉、しっかりして、ローズ姉!」

力なく頭を垂れる肩をするリオの目にあの黒いサーベルが、一式戦のコクピットをつらぬき、その先端は操縦席、ローズの身体に消えてシートの裏まで達していた。

 絶望的な光景に言葉を失くした瞬間、青白くはあるが美しい顔がリオを見上げた。

 「おおっ、仏よ……このような奇跡を」

 「 姉さん !! 」

震える唇が小さく動いている、てて耳を寄せる。

 「なにっ、姉さん」

 「トノ、今生もお仕えでき幸せで……ございました、先にく無礼をおゆるしください」

 「だめっ、だめっ、死んじゃいやっ、姉さん !!」

 優しく微笑ほほえむローズの顔に若い男性の顔が重なる。

 「今生の別れを……トノ……抱かれながら……このような至福しふく……トヨヒサがくやしがりましょう……」

 「だめだっ ! 死ぬることは許さんぞ、スケヒデ、生きろ!」

突然、自分の中の別人が叫ぶ、そうだ、この男は、ローズはスケヒデ。

 「あぁ……殿、お嬢様……少しは御恩ごおんを、お返しをでき……ありがとう……」

  美しく黒い瞳から光が消えて逝く、魂がかえって逝く。

  ローズは満足そうな、今まで見たことのないほどの優しい笑顔を残したまま逝った。

 「姉さん……ローズ……ローズ姉さん……ごめん……」

  ローズをスケヒデと呼んだ別人はすでにいなくなっていた。

  少しずつ体温を失っていくローズを抱きしめながらリオは謝り続けた。

  ローズはもう話さない、笑わない、叱ってくれない。

 「ごめんなさい……姉さん」

  “さよなら”は言えなかった。

  破壊された運河に少し早い雪花が舞っていた。


  リーベン航空防衛隊 第一戦隊 北部方面飛行大隊 rout293 第1小隊 

「ローズ・イワン少尉に答礼とうれい !」

  関係者全員がローズの横たわるストレッチャーに対し、右手を額に出迎えた。

  ローズの遺体を1式戦から引き外すことは難航し、4時間を要した。

  質素な基地の遺体安置所に続く答礼の列を横に進んでいくローズを茫然ぼうぜんと見送りながらリオは最後に救難ヘリのタラップを降りた。

 「お嬢様!」

 リリィが髪を振り乱し駆け寄る。

 「 無事ですか、お嬢様!」

 うつむいたままガクッと両膝りょうひざを付く。

(……違う……違うよ)

涙の川が裂傷の血糊ちのりを溶かし首筋をつたう。

「お嬢様!お顔に怪我をっ」

ローズ同様に美しい紺碧こんぺきの影を潜ませる隻眼せきがんの黒い瞳、リオは見返すことができなかった。

「だれか ! 医者を」

「!!」

俯いたままリオはリリィの両肩に手を伸ばした。

「違う、姉さん……私の顔などどうでもいい!!」

「ローズ姉がっ,ローズ姉が死……死んだのよ」

「私のせいだ……私の!」

「……」

リリィはそのローズ以上に細い身体に鉄棒を飲んだごとく、リオの両手を肩に受け止め真っすぐとリオの涙で愚図愚図の顔を見つめる。

「分かっておりまする」

「なら、なんで……私よりローズの所っ……行ってやってよ」

息が引きつって言葉が途切れる。

リリィが力強く両手でリオの背中を抱く、両膝立ちでリオと丁度ちょうど身長が合う。

「そんなことをしてもローズは喜びません」

「ローズ姉は死ななくてよかった、私が馬鹿な真似をして、私をかばって死んだのよ!」

 「なんとっ !」

「なんと妬ましや、お嬢様のたてとなり死せるとは……なんたる功名こうみょう

 「なんで、そこまで……私にそんな価値なんてない」

「お嬢様……トノ、どうかローズをめてやってください、よくやったと、大儀たいぎであったと」

 リリィは葬列そうれつの中を進むローズを振り返り、少しだけ微笑み小さく語りかけた。

 「スケヒデ……恩返し叶ったのだな」


読了ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ